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編集者の眼第11回

「アクセス解析」が役に立たないたった1つの理由

2010年06月04日 10時00分更新

文●中野克平/Web Professional編集部

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 アクセス解析ツール「シビラ」などを販売している株式会社環(かん)の江尻俊章社長は、アクセス解析歴11年の大ベテランだ。会社の所在地がアスキー・メディアワー クスと非常に近いこともあって、「これから打ち合わせましょう」「では5分で着きます」というように、気軽に意見交換している。そんな江尻さんに最近聞いたのが、「アクセス解析は役に立たない」という話。アクセス解析ツールの社長が何を言い出すのかと思って聞いてみると、アクセス解析で多くの企業に関わってきた江尻さんにしか言えない話だったので、紹介しよう。


アクセス解析はなぜ役に立たないか?

 ECサイトや資料請求サイトなど、 コンバージョンを計測することが目的のアクセス解析では、「目標達成プロセス」でページ遷移などの指標を読み解く。多くの場合は、「商品の受注終了ペー ジ」や「資料請求の受付完了ページ」を目標達成ページとして設定し、そこに至るプロセスを分析する。「トップページから訪れた人は離脱率が高い」「○○という キーワードから訪れた人はコンバージョン率が高い」といった分析をするのがWebマーケティングの基本、というのが最近の流行りだが「それは違うのではないか?」というのが江尻社長の立場だ。

 江尻社長によると、Webマーケティング的なアクセス解析には幅と深さの2つ視点が欠落しているという。

 「幅」は、目標達成につながる出発点の種類のことだ。企業はWebだけで活動しているわけではなく、電話やFAXはもちろん、駅前でのティッシュ配りやチラシのポスティングなど、さまざまな種類がある。アクセス解析は指標が取りやすいので、Webマーケティングの担当者は目標達成のプロセスを理路整然と説明したがるが、アクセス解析だけでは解明できない要因の方が実は多いこともある

 「深さ」は企業にとっての本当の目標達成が、実はWebマーケティングでは計測できない領域にある、ということだ。こんなことをいうと、「ECサイトなら、ショッピングカートに入れて決済ボタンを押した ら、それで目標達成。計測できないことなんてない」と反論されそうだが、ECサイトだって、返品されたり、商品が1か月後に事故を起こして、全品リコールになるかもしれない。決済が終了し、発送完了のメールを送った後でも、まだ目標達成とはいえない、というわけだ。

 幅と深さの視点を加えると、目標達成は、コンバージョンというただの点ではなく、面として理解しなければならないことがわかる。たとえば、「Googleから訪れた人はYahoo!から訪れた人よりも資料請求という意味でのコンバージョン率は低いが、実際に営業してみると高い確率で発注してくれる」ということは、単なるコンバージョン率では理解できない。Googleという始点から資料請求という点を通り、発注という終点に至る1本の線として、Webマーケティングの外側にある指標と組み合わせて、初めて企業内で共有されるべき知識になるわけだ。目標達成を点として理解している限り、アクセス解析は何の役にも立たない。

 「そうなると、アクセス解析はWebマーケティング担当者の仕事というよりは、ビジネスそのものを理解できるかで企業の役にも立つし、むしろ害になることもありますね」というと、「アクセスログ1級認定講座」というセミナーを開催していて、かなり好評だという。どんな問題が出題されているのか気になったので尋ねてみると、用意された特設ページを紹介されたので読んでみた。


  • 1人のユーザーが5ページ見た場合ページビュー数は5である
  • 同じユーザーが何度訪問してもユーザー数は1である
  • 「ノーリファラー」と「参照元なし」は 同じ意味である。
  • ユーザーが一番最初にアクセスしたウェブサイトのページを「出口ページ」という。

といった演習問題の中は、『Google Analyticsの使い方』という本を書いた私でも、一瞬答えに窮するものもあった。「『1級』という資格を授与するためのセミナーではなく、アクセス解析の目的は成果を出すことであって、 集計という手段がレポートを読むという目的になってはないけない、という考え方を学んで欲しい」という。

 「話がある」と呼び出されたけど、「結局アクセスログ1級認定講座の宣伝がしたかったのか」と気づいたのは、会社に戻った後だった。

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