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操作の手間を省くと実用度は雲泥の差になる

生みの親が語るNetWalkerの正体

2010年06月07日 06時00分更新

文● 古田雄介

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NetWalkerのカテゴリーはミニノート? PDA? スマートフォン?

シャープ パーソナルソリューション事業推進本部 パーソナルソリューション事業部 商品企画部 参事 笛田進吾氏

 2009年8月、シャープは「パソコンに迫る高機能を備えながら、携帯電話のような手軽さで使える、新しいモバイルインターネットツール」(※リリースより)としてNetWalker(ネットウォーカー)を発表した。第一弾として投入したのは、5型ワイド液晶にフルキーボードを組み合わせたA6サイズの「PC-Z1」。続いて2010年4月には、ほぼ同様のサイズでタッチパネル対応液晶を採用したフルタッチ端末「PC-T1」を第二弾モデルとしてリリースしている。今後、この2つの端末を併売していくという。

 今回NetWalkerの生みの親であるシャープ パーソナルソリューション事業推進本部 パーソナルソリューション事業部 商品企画部 参事 笛田進吾氏にインタビューする機会を得たので、今後のNetWalker戦略などを伺った。

第一弾の「NetWalker PC-Z1」。カラーバリエーションはホワイト系とブラック系、レッド系の3種類。実売価格は3万7000円前後

第二弾の「NetWalker PC-T1」。ブラック系とシルバー系の2種類をラインナップする。実売価格は4万7000円前後

 「PC-Z1」と「PC-T1」の共通点は、手帳サイズのボディのほかに、電源投入から約3秒で起動するレスポンスの高さや、1024×600ドットという液晶サイズの割に高い解像度が挙げられる。OSにLinux系のUbuntuを採用し、USB端子やmicroSDHCカードスロット、IEEE802.11b/gアダプターを備えているのも同様だ。いっぽうで、バッテリー駆動時間はZ1の約10時間にくらべて、T1は約6時間と短い。本体重量もZ1の約409gとT1の約280gで開きがある。

 そして、一番の違いは操作系だ。一般的なモバイルノートに近い感覚で使えるZ1に対して、T1は原則としてタッチパネルで入力するスタイルをとる。一見すると、T1の姿はPDAやスマートフォンに近いように思える。半年以上も家電量販店のミニノート売り場に置かれているZ1とは、別の道具といった印象だ。

 しかし、笛田氏は、2機種ともMID(モバイル インターネット デバイス)であることを強調する。氏は「仕事でも趣味でもインターネットを自由自在に使ってもらうというコンセプトが最初にあり、そこからどんな形状にするのか詰めていきました。端末単位でみると、ミニノートやスマートフォンに近いようにみえるかもしれませんが、ミニノートよりも携帯性に優れていますし、スマートフォンではあり得ない解像度を持っています。当然、通話機能もありませんし。どちらのカテゴリーにも寄らない独自路線の製品だと考えています」と語る。

 では、その独自路線はどんな強みを生み、ユーザーにどんな恩恵をもたらすのか。NetWalkerの成り立ち、そして、もっとも威力を発揮する使い方を笛田氏に教えてもらった。

ブランドコンセプトを浸透させるべく、素に近いZ1から投入した

 NetWalkerの特徴を深く把握するために、まずは成り立ちから迫ってみよう。

ブランドがある程度浸透した2009年11月には、別売の辞書コンテンツカードを同梱した「PC-Z1J」も売り出している。価格は4万9000円前後

 社内プロジェクトはZ1発表の約1年前から始まったという。最初に論議されたのはコンセプトを具現化する端末の姿だ。「最終的に3つのカタチが候補となりました。ノートパソコンと同じクラムシェル型と、iPhoneやiPadなどでも採用されているフルタッチ型、最後はキーボード付きのスマートフォンでよくみられるスライド型です」。初期の段階から、クラムシェル型のZ1とフルタッチ型であるT1のイメージがほぼ同時にできあがっていたわけだ。

 そこであえてZ1から投入したのは、パソコンに近い形状だからだ。「MIDを作るうえで、2種類のアプローチがありました。ひとつはスマートフォンから詰めていく方法、もうひとつはパソコンからです。我々はパソコン側を採用しました。つまり、NetWalkerはパソコンの技術や操作系から進めていって作り上げたブランドということになります。そうした背景から『パソコンの顔をしていたほうが、たぶん分かりやすいだろう』ということで、Z1を最初に持ってきたんですよ。加えて、当時すでにiPhoneがすごく流行っていたので、(差別化のため)キーボード入力の便利さをアピールしたかったという理由もあります」

「パソコンの顔をしていたほうが、たぶん分かりやすいだろう」ということで、当時すでにiPhoneがすごく流行っていたが、(差別化のため)キーボード付きのクラムシェル型Z1をリリースした

 プロジェクトチームは、新たなブランドを市場に送り出すにあたって、見慣れない形状の端末で独自のコンセプトを説明するより、おなじみのカタチをした端末で「実はこういうふうに使うモノですよ」とアピールしたほうが理解されやすいと考えた。その意図から、Z1ではあえて電子辞書や電子ブックなどの付加機能を標準構成から外して、別売オプションで追加するスタイルをとっている。何でもできる道具ではなく、あくまでも第一の特徴であるネットにつながる手頃な道具であることを伝えたかったというわけだ。

 その「ネットにつながる手頃な道具」としての強みは、手帳サイズで約400gの小型ボディーと約3秒の高速起動、約10時間のロングバッテリーという、屋外で手軽に使えるモバイル性能に集結している。インテル系CPUやWindowsを使わなかった理由もそこにある。笛田氏は「これを実現するために、CPUは消費電力の低いARM系の『i.MX515』を採用し、OSとブラウザーも起動の早いUbuntuとFirefoxにしたんです。HD動画の再生やマルチアプリ環境などはあえて目をつぶって、とにかくインターネットをストレスなく見るという環境を目指しました。その次にコスト面のことを考えましたね」と振り返る。

 発売当初は、Linux系OSが使えるモバイル端末としてマニアに注目され、その後はコンセプトの浸透も手伝って、現在までミニノートとしては非常に息の長いモデルとして認知されロングヒットを続けている。これは、モデルチェンジが早いパソコン市場としては異例の売れ方といえる。

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