このページの本文へ

前へ 1 2 3 4 次へ

もはや初音ミクに投票すべき! ネット時代の政治論

2010年05月27日 12時00分更新

文● 榎本統太(@t2enonu

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

初音ミクが立候補? キャラクター代議制の可能性

 番組終盤、濱野氏が提案したのが「非実在政治家擁立計画」(キャラクタラシー)。

 ニコニコ動画を見てみると、人気作家たちは「初音ミク」や「東方Project」など、仮想のキャラクターにクリエイティビティ(創造性)を預けている。そこで集合的/協働的な創作活動を行なっているのだ。それと同じことが政治でもできるのは? という発想だ。

濱野智史氏

 複数のクリエイターが協力して「初音ミク」のPVを作っているように、複数の人々が協力して政策を作り、更新していく。キャラクターは文字通り人々の代理人格となり、政策の不一致が生まれたら「派生キャラ」として分離・独立していけばよい。

初音ミク

 実際、日本では「鳩山首相はこういうキャラだからこれに反対だよね」など、政治家が政策よりも「キャラ」によって評価される面も強いと濱野氏は指摘する。支持者の民意を代表するのが政治家や政党の本来の役割なら、それが非実在のキャラクターでもいいのではないかと。

 濱野氏は吉田徹氏の著書「二大政党批判論」(光文社新書)から文言を引用し、次のように論をくくった。

「政党は社会的亀裂(クリーヴィッジ)に沿って形成される。ならば、いまの日本社会に存在するもっとも端的な社会的亀裂は『ネットがわかる/わからない』なので、この亀裂に沿った政党が存在して当然で、その政党の代理人として『初音ミク』がいてもおかしくはない」

 プレゼンを終えた濱野氏は、政治家や政治学者である他のパネラーを前に、かなりの批判を覚悟していたようだ。だが、そこからは「どう現実的に考えるか」という冷静な議論が行なわれることとなった。

猪瀬 頭の体操として面白い。だけど、納税とかの「痛み」についても触れる必要があるね。

鈴木寛 官僚制自体がすでに「キャラクラシー」なんですよ。政治言語に習熟した官僚たちによって作られたキャラクターが「文部科学副大臣」や「内閣総理大臣」なわけで。

吉田 カール・シュミット(ドイツの政治学者)は独裁委任を肯定した。けれど、彼が考えていたのはひとりの個人に権力を集中させるのではなく、「喝采」(拍手による賛同)による民主主義。まさに「初音ミク」(キャラクターを通じた共感)なんですよ。

堀江 全然わからない。何を話してるんですか?

 「議員が固有の意思を持って動くと面倒くさい。なら全部仮想キャラクターにしてしまえば有権者が完璧にコントロールできる」というのが発想の中核では?

堀江 代議制民主主義のままで、完全なコントローラビリティー(操作性)を確保する。そのためのインターフェイスとして「初音ミク」をかましたらどうかと。なるほどね。

 といった形で、発言者各自が濱野氏の提案に一定の評価を与えた上で、それぞれ専門の立場から批判やアドバイスを付け加えていった。このやりとり自体が、すぐれた「熟議」の実践となっていた。

 今回の「朝まで生激論」は代議制、すなわち議論の仕方そのものがテーマとなっていたこともあり、「明確な結論を出さない」という前提のもとで有益な対話がなされていた。ニコニコ動画にアーカイブが保存されているので、「議論」「対話」「熟議」「プレゼンテーション」などのキーワードに関心があれば、ぜひ観ていただきたい。


著者紹介――榎本統太

ソーシャルメディア・コーディネーター(社会媒体編集者)。紙の書籍からニコニコ動画まで、コンテンツの特性を生かした企画・制作を手掛ける。Twitter IDは「@t2enonu」。


前へ 1 2 3 4 次へ

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン