みんな大人で「任せます」といえる人だった
── 制作のお話を聞いてると、コラボがかなり上手く作用した好例のように思えます。お金が絡まない協業は、例えば、進行がぐだぐだになってしまいがちですが……。
toku ARiAは1ヵ月押しくらいで完成したのでいいほうですよね。運がよかったのかもしれませんし、みんなが信頼し合っていた部分もうまく作用しました。
あとは全員がTwitterをやっていたので、つながりやすかったんだと思います。ツイートを見ると「今、暇なのかな」ってのが分かりますし。自分の好きなときに発言して、つながれるというツールではTwitterが最強ですよね。
refeia 最終的に「押し押し」の進行になりましたけど、同人で5、6人が協業するとなると、半年何も動かないってことも普通にあります。
── スケジュールってのは誰かが押さえていたんですか?
sleepwalker 全体で何となく「ここまで」って決めて、あとは個々のやりとりで進めていました。
refeia それぞれがいつまでにできるかを答えて、「その辺に上がったらいいよね」って感じです。自分の仕事を押しのけてってやり方はせずに、完全に余った時間しか使っていません。
sleepwalker やっぱり本業のスケジュールには左右されます。相手に「俺ちょっと遅れる」って言われたら、「分かった」としか返せないんですよね(笑)。
木緒 本末転倒になってしまうといけませんから、あくまでも空いた時間を捻出してやるという。逆に言うとそれができる人たちだからよかったというのもあるんです。誰か一人でも無理して、自分の仕事に穴をあけてやってしまうと「あれ?」となってしまう。
toku 期限までに仕上げるというのではなくて、納期を押してでも「作りきる」というのが目標なんです。そこが仕事と違う。
── 逆に仕事ではないと泥沼に陥りませんかね? どこまでも「やりたいこと」を突き詰めてしまって。
toku そこはある程度ガイドラインがあって、間に合わなかったら2週間でできる範囲とか決めてやっています。仕事じゃないので、多少スケジュールが前後しても影響ないというか。
── あとは作品の参加人数が増えると、「誰かと誰かのやりたいことの戦い」になりがちです。今回、そうはならなかったんですか?
toku 戦うというわけではなく、みんなで好きなことをやろうって感じでした。「そっちはどうやりたい?」って聞いて「じゃあそれもいいね」って軌道修正したりとか。逆にお金が絡んでいたら、「じゃあそこはお任せします」ってなることもありますよね(笑)。お互いの好きなところを出し合って、納得して作るというのもひとつのテーマといえばテーマでした。
refeia 専門分野はその人に任せるという感じでした。みんなで集まることもありますが、基本的にブレストレベルで、そう具体的な話まではしてません。各メンバーの専門分野で名前出してやるんだし、自分の名前が傷つかないようにがんばろうって(笑)。
toku みんな大人だし、「じゃあこの辺は任せます」っていえる人だから。
木緒 プロのしがらみとか、仕事での制限を経験してきている人が多かったので、勝手が分かるんですよね。「ここからここまでは意見を言うけど、ここからはあなたのベストを尽くしてください」って感じで、お互いの領域に踏み込まないという暗黙の了解ができている。そこが今までにない感覚で、やりやすいところでした。
── 「あとは任せた」っていう。
木緒 それですよね。自分も昔はアマチュアでコラボをやっていたんですが、たいてい誰か一人に負担が集中しがちなんです。自分もまとめ役をやることが多かったので、そこで苦労してて、「もうコラボなんて絶対にやらない」と思ったこともありました。
今回やってみて思ったのは、ある程度領域ができている人とコラボするというのは、純粋に負担が減るし、その減った分がクオリティーにはね返ってくるということです。これなら、みんなコラボでやったほうがいいと。今はネットや制作の環境が整備されているので、こうしたケースが増えていけばいいんじゃないかなと純粋に思います。
コラボだから問われる作り手の資質
── ネットでのコラボは今後も増えていくと思います。そこで質の高いウケるものを作るコツというのはありますか?
toku いろいろなサービスの登場で、出会いの間口は広がって、チャンスは増えましたよね。だから即席のコラボはすぐにできるんですが、そこから作品のクオリティーを引き上げるとなると別の話ですよね。結局、分業でどれだけのクオリティーを引き上げられるかというのは、そのまかされた人の力量によるんだと思います。
refeia 各人の専門分野をこなすのももちろんなんですが、そこから少し広がる、プロデュース力みたいなのも重要ですよね。
木緒 今回、運がよかったのは、みなさんが個人としても作品を作り慣れていて、ひとつの作品をプロデュースするという感覚が分かっていたところだと思います。全体を見ながらこう動けばいいと判断していて、「俺はここだけやっていればいい」ってのが一人もいなかった。
── コラボだからこそ、プロ、アマ関係なく個人の資質が問われるということですね。例えば、お金は関係なくニコ動などで自分の作品を公開して、いいものが作れる人だということを知ってもらうことが大切なんでしょうか?
toku ただ、今のニコ動を見てると、公開した作品で「精一杯やりました」といってしまう風潮があるように感じられるんですよね。そこにとどまるんじゃなくて、もっと成長していったところの作品がよかったりするんです。例えば、「歌ってみた」にしても、聴いてすぐ歌った曲と、1週間聞き込んで歌った曲では完成度が全然違う。そういう感覚ですかね。
その上で、見せ方も必要だと思うんです。いいものを作るのは当たり前で、ブログとかTwitterで公開して、こんな風に作っていると見せるというのもアーティストのカリスマ性につながることじゃないかって。その人が作った作品だから見に行きたいと思わせるような、自分のやり方を見つけることが大切だと。
メジャーのような、宣伝込みでのプロデュース力やブランディング力がニコ動のアーティストにも求められる時代なんだと思います。勝ち負けじゃなくて、自分の好きなモノを聴いてもらいたいだけなんですけどね。