その3:モズライト「ザ・ベンチャーズ リ・イッシューモデル63」
極めて高価な衝動買いは、勝手よく知った自分のテリトリー内で引き起こすことが多い。長い衝動買いの歴史を持つ筆者は、旅先でリスキーな買い物をしでかして、家族争議になりかけたこともあった。
最後にご紹介するのは、モズライトのエレキ・ギター「ザ・ベンチャーズ リ・イッシューモデル63」だ。大阪出張の帰りに偶然立ち寄った馴染みの楽器屋さんで見つけたときは、めまいがしそうなほど衝撃を受けた。ショウウィンドウに置かれた100本近いエレキ・ギターの中にあって、そのモズライトだけは異彩を放っていたのだ。
モズライトは、筆者が高校生で軽音楽部に籍をおいていた頃からの夢だった。学校からの帰宅途中にある楽器屋のショウウィンドウでど真ん中に置かれていたのだ。放課後、毎日のように暗くなるまでバンド練習をしてメンバーと一緒に帰る際、ガラスに額をくっつけてため息をついて見ていたものだ。
「エレキギターのロールスロイス!」
今思えば考えられないほど臭い宣伝コピーだが、純真無垢な高校生の筆者には、それは魂に響く素晴らしい言葉だった。そして当時、そのエレキ・ギターを造ったクラフトマンの心意気を現すもうひとつのキャッチコピーは「Built in Soul!」だ。
出張帰りの身で、お金の持ち合わせはごくわずか。しかし、人生にたった一度のチャンスだ。出張用にいつも持っていた法人クレジットカードで一括支払いをして、そのまま大きなギターケースを新幹線に持ち込んで帰宅した。
何でもそうだが、価値の分からない者がマニアックな商品の金額を見ると、想像を大きく超えた法外な値段にとらえがちだ。多くは語らないが、筆者の購入したモズライトも同じだった。
ちなみにモズライトギターの産みの親で、モズライト社の創始者であるセミー・モズレイ氏は、残念なことに1992年に亡くなっている。その翌年の1993年、彼が生前造ったギターの何本かに、奥様であるロレッタ・モズレイさんがサインをしたと言われている。
確かに手元にあるモズライトのヘッドの裏側には、はっきりした筆記体で「ロレッタ モズレイ 1993年」と書かれている。筆者が衝動買いしたのは1994年だ。
モズライトギターに関しては、過去に、日本国内での販売権や商標を巡って裁判なども行なわれており、ダークなイメージがついてしまっているのが少し残念だ。ファンの多い日本には、多くの偽物も出回っていると聞く。
手元にあるモズライトが本物か偽物か──。それは筆者にとって大した意味はなく、重要なのは、高校生のときも、そして40年以上たった今も心から気に入っているパワフルで粘りのある音だ。部屋に飾ってあるモズライトを見るたびに、真の衝動買いとはかくありたいモノだと実感する。
衝動買いも簡単ではないが、何かを諦めることで実現可能なモノもある。
今回の衝動買い
その1:バング&オルフセン「BeoSound 9000」「BeoLab 8000」
現在価格:122万8500円
その2:ルイ・ヴィトン「エピノワール アタッシュケース」
推定価格:75万円(現在は該当商品なし)
その3:モズライト「ザ・ベンチャーズ リ・イッシューモデル63」
購入価格:49万8000円
T教授
日本IBMから某国立大芸術学部教授になるも、1年で迷走開始。今はプロのマルチ・パートタイマーで、衝動買いの達人。
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