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クラウドコンピューティング実現を事業の中核に

クラウドの覇者を目指すヴイエムウェアの戦略と企業買収

2010年05月20日 07時00分更新

文● 渡邉利和

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ヴイエムウェアは最近同社が実施した企業買収の意図や今後の事業戦略に関する説明会を開催した。説明を行なったのは、米本社のシニア・バイスプレジデントのラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏だ。

仮想化からクラウドへ
ヴイエムウェアはどうでるか?

米本社のシニア・バイスプレジデントのラグー・ラグラム(Raghu Raghuram)氏

 ラグラム氏は冒頭、「ヴイエムウェア創業から最初の10年の戦略はシンプル。一言でいえば『仮想化』であり、その分野で大きな成功を収めた」とした上で、「次の10年は『クラウドコンピューティングアーキテクチャへの移行』を実現していく」と語った。事実上、これだけでヴイエムウェアの将来戦略が語り尽くされていることにもなるのだが、その後30分ほどを費やして同氏が補強的に説明した内容を要約して紹介しておこう。

 まず、同氏は仮想化技術を「クラウドコンピューティングのための基盤技術」と位置づけた。事実上、クラウドは仮想化抜きでは実装し得ないという認識だ。その上で、ユーザー企業が仮想化を導入してきた経緯を振り返り、ユーザーが目的としたことと、そこから得られる効果を大きく3段階に分けた。

コスト効率、QoS、迅速性という3つのステップ

 最初は「IT自体の生産性」が目的の段階で、効果として「コスト効率の向上」が得られた。なお、この段階で使われた技術要素は「コアプラットフォームの仮想化と運用管理機能」と「アプリケーション開発の品質と効率」で、ごく初期段階ではあったが「より進んだ運用管理と事業継続性」もあったとしている。次の段階では「ビジネスの生産性」が目的となり、ここでQoS(Quality of Service:サービス品質)の向上が得られたという。技術要素としては、「デスクトップの仮想化」と「自動化(Automation)」が新たに加わってきた。そして、最終的にユーザーが目的に据えているのが「IT as a Service(IaaS)」であり、ここで「ビジネスの迅速性(Agility)」が効果として得られる。

 別の視点で見ると、「ITの生産性向上」の段階ではおもに仮想化技術自体のテストや開発環境に対する仮想化技術の利用が行なわれ、IT部門が所有するリソースがプール化され、設備投資額の削減効果が得られた。次の「ビジネスの生産性向上」の段階では、ビジネスアプリケーションやデータベース、デスクトップの仮想化が進み、運用コストの削減が達成され、QoSの向上も見られた。最終段階となる「IT as a Service」では、ポリシーベースのプロビジョニングや運用管理、サービスデリバリが実現し、ビジネスの迅速性/柔軟性が向上する。

まずは仮想化でのテストや開発によるコスト削減

次はビジネスのアプリケーションやDB、デスクトップで品質を向上

最終的にはポリシーベースのプロビジョニングや運用管理、サービスデリバリ等を実現

 つまり、ユーザー企業は仮想化技術を利用すること自体を目的としてはおらず、ビジネス上の要件に対応するために仮想化技術をどう活用するかに関心があるわけで、現時点での解としては最終的にはクラウド≒IT as a Serviceの実現がユーザー企業の目的となっている。あえていえば、仮想化技術自体はクラウド/IT as a Serviceを実現するための単なる手段でしかないわけだ。

 IAサーバの仮想化を現実的なソリューションにまで洗練させた立役者であるヴイエムウェア自身の認識としてはやや意外な感もあるが、こうした認識に立った上で、同社は単なる仮想化プラットフォームの開発/提供に留まらず、より上位レベルの「クラウドコンピューティングを実現するために必要となるさまざまな要素を整備していく」ことに注力し始めているわけだ。

同社が考えるプライベートクラウドとハイブリッドクラウド

 ラグラム氏はまた、プライベート・クラウドはユーザー企業にとってまずは使いやすい解になるという。社内ITリソースを仮想化によってプール化することで実現されるプライベート・クラウドには、「既存のアプリケーションをクラウドの仕様に合わせて書き換える必要がない」「データを社外に出さずに済む」「QoSが確保しやすい」といったメリットがあるためだ。そこで、外部のパブリッククラウドの利用を推進するために取り組むべきは、これらのメリット、つまり「既存アプリケーションとの互換性の確保」「QoSの維持」「柔軟性やセキュリティの確保」といった課題を解決していけば良いという方針が得られる。

 このためのVMwareの製品戦略としては、仮想化インフラを実現するためのソフトウェアである「VMware vSphere」、運用管理やQoS確保のための「マネージメントソフトウェア」、自動化やチャージバックを実現するための「クラウド管理ソフトウェア」などを提供していく、という形にまとまる。同氏は、「2010年はこのフルスタックの提供を開始する年となった」とした。

 次に、企業内のITインフラをプライベートクラウドに移行した次の段階としては、外部のパブリッククラウドとの併用が視野に入ってくる。プライベートクラウドとパブリッククラウドを紐付け、仮想マシンを相互に移動できるようにするなど、両者を一元運用できるような新しいサービス体系の実現が求められることになる。このための取り組みとしてまず行なわれたのが「vCloud API」の提供ということだ。同氏は、プライベート・クラウドとパブリック・クラウドが組み合わされた環境を「ハイブリッドクラウド」と呼び、その実現がvCloud APIの意味だと位置づけている。

アプリケーション開発プラットフォームまでカバー

 ヴイエムウェアはこのところ、従来の「仮想化ソフトウェア」の領域を踏み越えるような企業買収や提携を積極展開している。

ヴイエムウェアの開発したクラウドインフラの内容

 ヴイエムウェアはJavaアプリケーションフレームワーク開発企業のスプリングソースを2009年9月に買収し、同社の事業部門に位置づけた。その後ヴイエムウェアはクラウド環境でのメッセージング技術を持っていたラビットMQを今年4月に買収、5月にはデータ管理技術を保有するジェムストーンシステムズの買収を発表している。また、スプリングソースとの関連では、4月に発表されたSalesforce.comとの戦略的提携に基づくエンタープライズJavaクラウド「VMforce」の取り組みもある。

 これらは、企業ユーザー向けにクラウド環境を「IT as a Service」として提供することを考えた場合には最終的に必要となってくるコンポーネント群だ。仮想化技術がユーザー企業にとってIT as a Serviceを実現するための単なる道具でしかないのと同様に、クラウドもまた、企業が必要とするアプリケーションを稼働させるための単なる土台でしかないといえる。この土台の上にユーザー企業がアプリケーションを実装できるような環境整備ができているかといえばまだまだ未整備な状況であり、VMwareはスプリングソースを通じてこの環境整備に積極的に取り組み始めたということになる。

 クラウド環境でのアプリケーション開発言語としてJavaが最適なのか、という質問に対してラグラム氏は「現状でのエンタープライズアプリケーション開発者に広く受けいられている言語としてまずサポートした」としており、Java以外にもGroovyなどの名前を挙げ、さまざまな言語をサポートしていくことを示唆しているが、それはさておき、まずはスプリングソースのこれまでの技術的な蓄積を直接生かせるJavaによる「クラウド用アプリケーション開発プラットフォームの整備」に積極的に取り組み始めたことになる。

局地戦から世界大戦へ?

 ヴイエムウェアはIAサーバーの仮想化をエンタープライズ環境でも実用に耐えうるレベルにまで成熟させた企業であり、仮想化技術のトップベンダーである。一方で、仮想化ソフトウェアの中核となるハイパーバイザは無償化が進行しつつあり、「コモディティ化の道筋」が見えてきている状況でもあり、仮想化技術だけでは成長を維持するのは難しくなるであろうことも容易に想像できる。

 ヴイエムウェアの戦略は、仮想化技術という狭い領域に特化するのではなく、仮想化技術を基盤としたITインフラのスタックを上位層まで全てカバーするというものだ。当然ながらこの戦略の背景には、「所有から利用へ」という新しいトレンドが存在し、IT関連の技術志向の企業が生き残るには、クラウドで必須となる基盤技術を提供し、自社技術をデファクトスタンダードにすることが有効、という読みがあるものと思われる。

 奇しくも、クラウド環境のデファクトスタンダードを目指すなら、クラウド対応のアプリケーションを開発/実行するためのプラットフォーム整備が必須、という判断はマイクロソフトと全く同一だと思われる。マイクロソフトがWindows Azureで取り組んでいるのがまさにこの部分であり、マイクロソフトはWindows/Windows Serverに慣れ親しんだ開発者が最小限の負担でクラウド環境に移行できるように、プログラミングモデルからミドルウェア/サーバ・アプリケーションまでを完備する環境としてWindows Azureを立ち上げている。つまり、Java開発プラットフォームを最上位に置くヴイエムウェアのソリューション・スタックが直接的に競合する相手としてまず思い浮かぶのはマイクロソフトということになる。

 さらに、Salesforce.comとの協業によって、Salesforce.comをライバル視する他のクラウド事業者やサービスプロバイダとも間接的に協業関係に立つ可能性も否定できない。最下位に位置づけられるハイパーバイザのレイヤから運用管理ソフトウェア、アプリケーション開発プラットフォームまでフルスタックで取り組むとなれば、当然ながら各レイヤごとのメジャープレイヤーとの競合はある程度避けられない。そこはヴイエムウェアとしても織り込み済みだろうが、そうはいっても大胆な戦略だと見えるのは間違いない。戦略的な狙いがマイクロソフトと同一なのは、現在のVMwareのCEOがマイクロソフト出身のポール・マリッツ氏だということとも関連があるはずだ。

 仮想化技術のコモディティ化という大きなトレンドを見据えた生き残り戦略であることは間違いないだろうが、ヴイエムウェアが選んだ道は、いわば「クラウド時代の覇者になるために多くの企業と競合する」厳しい道だと見える。一方のマイクロソフトも、クラウド時代への生き残りが掛かっているわけで、その成否はまだ見えない段階にある。この両社のどちらがより多くのアプリケーション開発者の支持を集められるのか、あるいはまったく別のプレイヤーが勝つことになるのか、現時点では全く予想が付かないが、ユーザーにとっても真剣に注視するべき対決構図であろう。

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