気軽に「CD出してみない?」とは言えなかった
―― ところで、今までレーベルで仕事をされてきたわけですが、CDではなくデータ配信なのはなぜですか?
小寺 最初に話したように、アーティスト印税が低いわけです。だからミュージシャンに「CDを出そう」とは言いずらい状況になっていたんですね。CDを出してもミュージシャンにお金を払えない。搾取じゃないですけど、何か悪いことをしているような気になる。その上、自分も大して儲からない。CDっていうメディアを通してやると、今まで僕がやってきた仕事はできないなと思ったんです。
―― 小寺さんのやりたい仕事って何ですか?
小寺 アーティストとの、本当の意味での対等な仕事ですね。15年前からずっとマネージャーをやっていて、プロモーションもやっている。自分でレーベルも持ちました。自分の中でも最低限のことはできるようになった。そしてデータだったら、さらにレーベルの先のディストリビューションまで含めることができるし。
―― nauだったら80%も払えるし。
小寺 自分で原盤を持っているアーティストならそうですね。JASRACの管理曲であれば、そこから著作権使用料を引いた額ということになるんですけど。でも、僕は別にデータ配信がやりたいわけじゃないんです。
―― あらら。というのは?
小寺 まつきの反響を見ていて、なんだデータで良かったんだ、という発見ですね。「一億年レコード」は去年の10月くらいから準備をして始めたんですが、あんなに注目されたことは意外でした。
―― それは予想外に売れたということですか?
小寺 いえ。買った人たちが「音楽を買うこと」に喜びを感じていたことです。それを見ていて、あっ、データでいいんだと思いました。今ならデータのほうが、より手渡しに近い形でリスナーにつながれる。そっちの方が楽しいよな、と。
―― それさえできるならメディアは何でもいいという。
小寺 そうですね。CDよりデータのほうがいいとは思ってないんですが、今はデータだったら面白いことが簡単にできる。それでやっとミュージシャンと対等に仕事できるし、気軽に「nauでやってみない?」と言えるだろうと。
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