VOMモデルでは「US15X」も搭載可能
パフォーマンスより「用途」重視か
冒頭で述べたように、今回試用したのは、VAIO Pの中でも店頭販売モデルにあたる「VPCP119KJ」だ。
これまでもVAIOでは、CTO方式で販売される「VAIO OWNER MADE」モデル(VOMモデル)と通常の店頭販売モデルの間にスペックの違いが存在したが、今回のVAIO Pは特に顕著だ。同じVAIO Pではあるが、店頭販売モデルではチップセットが、従来機種と同じ「Intel SCH US15W」のみとなるが、VOMのカスタマイズモデルでは、性能を上げた「US15X」が選択できる。
US15Xは、内蔵GPUクロックがUS15Wの200MHzから266MHzに高速化されているため、グラフィック周りの速度が向上しているものと期待できる。残念ながら今回は店頭販売モデルなのでその差はわからない。VAIO Pで使われるAtom Z系プラットフォームでは、特に描画速度が問題になることが多い。その点で改善が図られているとすれば、やはり見過ごせないだろう。ただし逆に言えば、US15Xの改善点はそのくらいにとどまるようなので、パフォーマンスを重視しないなら魅力は薄いかもしれない。
試用した限りでは、US15W採用の店頭販売モデルのパフォーマンスは、VAIO XやVAIO P旧モデルと大差ない。旧モデルには、店頭販売モデルなどにHDDモデルがあったが、SSDのコスト低下もあり、今回は全モデルSSDになった。これはパフォーマンスにプラスだが、スペック上の変化ではない。
スペックにこだわるなら、店頭販売モデルよりはVOMモデルを選ぶべきだろう。ちょっとしたことだが、今回からVOMモデルでは「3Gモデム」と「WiMAX/無線LAN」の両方を搭載することも可能になっており、選択のジレンマが減っているのがうれしい。
とはいえ、動作クロックがあがったといってもGPUが「GMA500」であることに変わりはないので、US15X搭載モデルでもVAIO Pの「速度はそこそこ」という評価は変わらないだろう。テスト機でのWindows エクスペリエンスインデックスのスコアは「2.3」。足を引っ張っているのは完全にCPUだ。発熱が大きめであるのも、常に負荷が重いためと考えていい。
他方で、設計をリニューアルした効果として、バッテリーの増量が挙げられる。標準添付バッテリーでも、「BBench」でのテストでは通信しながらで4時間弱。別売の大容量バッテリーならば、計算上7時間半を超える。これならモバイルマシンとして十分納得できる範囲といえる。旧機種に比べると、通信しながらの実働で最低でも1時間は動作時間が伸びることになるので、買い換えユーザーには、そこが最大の魅力といえるだろう。
省電力設定 | パフォーマンス設定 |
---|---|
約3時間50分 | 約2時間45分 |
逆に言えば、機構的にも性能的にも大きな進化がない今回のVAIO Pを選ぶか否かは、「デザインが気に入ったか」「センサー系機能に惹かれるか否か」が分かれ目、ともいえる。このサイズのPCを出すメーカーが少ない現状では、1年半前の初代モデル登場時と同じく、「このサイズ感のPC」では最も良くまとまった機種であることに変わりはない。
もちろんVAIO Pは小型とはいえ、携帯電話機とは性格が異なる機器だ。だからセンサー系の進化は、PCとしての機能を重視する人には魅力が薄いと感じるかも知れない。だが、一般的な形状のPCがどんどん陳腐化し、iPadのような製品も登場する今は、「サイズなりの特質を備えている」ことが重要になっている。1年半後のVAIO Pの進化点がセンサーに集中しているのは、CPU関連の事情以外に、そういった部分が大きい、ということなのだろう。
「持ち歩いて使う価値をどう演出するか」がこれからのテーマになりそうだ。その意味では、センサーを使った「ほかにないソフト」がひとつくらい欲しかった気がする。
- お勧めする人
- ・完成度の高い「キーボードサイズ」のPCが欲しい人
- ・iPadやスマートフォンでなく「PC」にこだわりがある人
VPCP119KJ の主な仕様 | |
---|---|
CPU | Atom Z530(1.60GHz) |
メモリー | 2GB |
グラフィックス | US15Wチップセット内蔵 |
ディスプレー | 8型ワイド 1600×768ドット |
ストレージ | SSD 64GB |
無線通信機能 | WiMAX、IEEE 802.11a/b/g/n、Bluetooth 2.1 |
インターフェース | USB 2.0×2、ヘッドホン出力など |
サイズ | 幅245×奥行き120×高さ19.8mm |
質量 | 約619g |
バッテリー駆動時間 | 約5.5時間 |
OS | Windows 7 Home Premium 32bit版 |
予想実売価格 | 10万円前後 |
発売予定日 | 5月22日 |
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング仕事術」「iPhone仕事術!」(朝日新聞出版)、「iPad vs.キンドル」(エンターブレイン)。
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