オンプレミスからBPOS、そしてホステッドクラウドのメリットとは?
SharePoint導入は3通りの方法を検討しよう
2010年05月13日 09時00分更新
ホステッドクラウド
マイクロソフトがBPOSで提供しているのは、あくまで「標準の」SharePointだ。つまりログインすると、「素の」SharePointの画面がぱっと表示される。
しかし現実の企業システムでは、「BPOSを契約し、翌日からそれをエンドユーザーに提供して使い始める」わけにはいかない。なぜならユーザーは「SharePointそのものを使いたい」わけではなく、SharePointを使って「業務をこなしたい」だけだからだ。
SharePointで業務をこなせるようにするには、SharePointに加えて最低2つのコンポーネントを用意する必要がある。1つは「業務テンプレート」であり、もう1つが「アプリケーション運用」だ。
話をわかりやすくするためにExcelのイメージで説明しよう。たとえば、あなたはベンチャー企業の経理部員で、これまで手計算でやっていた「交通費精算」という業務を効率化したいとする。Excelというソフトを買ってきて社員のPCにインストールすれば、すぐに下記図の左のような状態になる。つまり「Excelが使える状態」にはなっている。これは、BPOSを契約した直後の状態だ。
しかし、あなたは「Excelが使いたい」わけではない。「交通費精算」を社員にやらせたいのだ。そのためには、Excelシートにさまざまな設定を加えて、図の右のような「交通費精算フォーム」を作る必要がある。日付、行き先、費目(電車かタクシーか)、乗車区間、金額、チャージ先部門コードなどが設定されている必要があるわけだ。これが「業務テンプレート」である。
さらに、上記の「交通費精算」というフォームは、一度作ったらおしまいというわけにはいかない。組織変更に伴い部門コードの変更があるかもしれないし、SuicaやPASMO導入により処理フローが変わるかもしれない。つまり業務テンプレートを業務ニーズに合わせて継続的にメンテナンスしていく人員が必要である。これが「アプリケーション運用」だ。
これまで、SharePointを導入した企業では、この2つは自社で用意せざるをえなかった。オンプレミス構築はもちろん、BPOSを契約しても、この部分は提供してもらえないからだ。これに対し、SharePoint上に使いやすい「業務テンプレート」群を乗せ、さらにその維持管理も合わせて請け負うことで、よりすぐに使える度を高めようとしているのが、ホステッドクラウドという新しいサービスだ。
リアルコムが先日開始したホステッドクラウド「BPオンデマンド」を例にとると、「業務テンプレート」としてはたとえば下記のようなものが提供される。
- ポータル
- セキュア文書ライブラリ
- メール連携つきディスカッション掲示板
- 通知・通達
- 電話帳
- カレンダー
- ワークフロー
- データベース
- 施設予約
いずれも一見SharePoint標準でも提供されていそうな機能ばかりに見えるが、「素のExcel」と同様に、エンドユーザーにそのまま使わせるには厳しい。これを「交通費精算フォーム」のように使いやすくしたものが「業務テンプレート」だ。
リアルコムではBP研究会の会員企業と密接に連携し、現場ユーザーのニーズや声を吸い上げ、またITリテラシレベルを考慮して業務テンプレートを作り、また継続的に改良している。業務テンプレートの使い勝手の良さは、SharePoint導入後のユーザーの反応に大きく影響するため、重要なポイントだ。
次に「アプリケーション運用」では、たとえば「コンテンツの一括移動」がある。組織変更などの際、たとえば「あるドキュメントライブラリを、ストアされている文書(ファイル)ごとまとめて別のサイトの配下に持っていきたい」というニーズは普通に発生する。ファイルサーバーなら、ひとつのフォルダをマウスで掴んで別のフォルダの下にグリっと動かすだけ、1秒で終わる作業だ。
ところが残念なことに、SharePointのドキュメントライブラリはファイルのSharePoint内での移動には非常に弱い。というより「移動」という概念は事実上なく、いったんローカルにダウンロードしてからアップロードしなおすに近い。となると、カテゴリなどのプロパティ情報は新しく付与しなおさなくてはならない。しかもファイル1つ1つだ。
これは、とてもではないがユーザーの理解が得られる話ではない。そのため、現実的には「AvePoint」などの管理系アドオンツールを購入し、オペレーションを設計し、オペレーションマニュアルを作り……、といったワークが必要となる。こうした手間も、BPオンデマンドを契約すれば自社で抱える必要はなくなる。
「作る」から「使う」への流れはさらに加速
お気づきかもしれないが、「業務テンプレート」と「アプリケーション運用」はどちらも、満たすべき要件はどの企業でもほぼ同じである。もちろん企業ごとに細かなバリエーションはあるが、本質的にやっていることはSharePoint上のテンプレート管理であり、SharePointのサイト管理・運用管理にすぎない。
先ほどの「交通費精算」の例でいえば、部門コード、セルの配置、色などは各社違えど、「使った交通費を一覧にして合計金額を出す」という基本部分はどの企業でも同じであろう。したがって、専門業者にアウトソースすればスケールメリットが効く。各社が個別に開発したり要員を抱えたりするよりずっと安く、かつ高い専門知識に基づいた「ユーザーに使いやすい仕組み」が提供されるのは道理だ。
ユーザー企業がここでいくら努力しオリジナリティを発揮したところで、この道のプロを上回るのは容易ではない。その分の時間と労力は、本業に投入するべきだろう。
第4回で、SharePointユーザーの間では「作り込み開発」から「設定」へ、「作る」から「使う」へという流れがあると説明した。これをSharePointというツール(図のレイヤ1~3まで)に留まらず、「レイヤ4:業務テンプレート」、「レイヤ5:アプリケーション運用」にまで拡張して、さらに「使う」に特化することを可能にしたのがホステッドクラウドなのだ。その意味で、ホステッドクラウドがSharePoint活用の最先端を行く使い方として注目を集めているのも当然であろう。
おわりに
ここまで計8回にわたって、「今さら聞けないSharePoint超入門」を連載させていただいた。当初は、4回程度で全体をカバーするはずだった。しかし、つい「あれも、これも」お伝えしたい、と欲張っているうちに8回にもなってしまった。わがままを許してくださったTECH.ASCII.jp編集部に厚く御礼を申し上げたい。
それから、最後に、読者のみなさまにお知らせ。この連載にちなんで、リアルコムでは特別セミナーを実施する。題して「今さら聞けないSharePoint超入門セミナー」だ。SharePointに関しての基本的な知識を説明してくれる「初心者向け」セミナーというものが他には存在しないので、弊社にて実施することとした。
本連載をお読みいただいた上で、もう一段深い理解や全体像を得たい方にお勧めする。また1.5時間ほどのセミナーの後に、リアルコムのスタッフによる「ご相談会」も実施するので、具体的に相談してみたいという方にもいい機会になろう。
詳しくは、下記URLより確認のうえ申し込んでいただきたい。
いまさら聞けないSharePoint超入門セミナー
セミナーサイト(http://www.realcom.co.jp/info/seminar/SharePoint_basic.php)を参照のこと
それでは、みなさんのSharePointライフが楽しく、楽なものになるよう祈念して、筆を置くことにする。ここまでのお付き合い、ありがとうございました。
筆者紹介:村田聡一郎(むらた そういちろう)
リアルコム株式会社 執行役員コンサルティンググループ担当/BP研究会担当
外資系大手IT企業、米国本社駐在を経て2002年リアルコム入社。ユーザー視点に立った「仕事が楽しく、楽になる情報共有」を推進している。米国ライス大学MBA。
この連載の記事
-
第7回
ソフトウェア・仮想化
メールを捨ててSharePointを使おう! -
第6回
ソフトウェア・仮想化
あるけど「ない」機能を使うSharePointのコラボレーション -
第5回
ソフトウェア・仮想化
アドインで活きるSharePointのワークフロー -
第4回
ソフトウェア・仮想化
「半製品」のSharePointを補うアドオンと開発 -
第3回
ソフトウェア・仮想化
SharePointの理解は、リストとコンテンツから -
第2回
ソフトウェア・仮想化
SharePointの中核機能「ポータル」とは? -
第1回
ソフトウェア・仮想化
ポータルやコンテンツ管理ならSharePointにお任せを -
ソフトウェア・仮想化
今さら聞けないSharePoint超入門<目次> - この連載の一覧へ