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佐々木渉×浅井真紀 ロングインタビュー

初音ミク Appendに託された「ものづくりの心」

2010年05月12日 14時00分更新

文● 広田稔

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初音ミクの世界に二次創作は存在するのか?

浅井 背徳的というキーワードのあとには、パッケージをデザインするにあたって、初音ミクと創作物の関係についても議論しました。どこまでが初音ミクで、何が二次創作なんだろうかと。

 音楽で言えば、「恋は戦争」や「ワールドイズマイン」といった曲は、初音ミクというキャラクターを元にした二次創作なのか?という疑問が僕の中にずっとあったんです。でも歌っていないソフト単体としての初音ミクが「一次」なのかと言われると、それも違う気がする。

 ビジュアルでも、Keiさんのイラストはオリジナルであり大前提なんですが、「恋は戦争」を歌っている初音ミクのイメージは、PVを書かれている三輪士郎さんの絵こそ「恋戦のミク」という印象があります。そこでKeiさんが描かれたイラストとどっちが正しいのかと言われると、どっちもそのイメージとして産まれたミクとして本物ですよね。

恋は戦争




浅井 どれが正当で、どれが二次でという考え方は、初音ミクに関しては違っているのではないだろうか。オフィシャルだけでなく、そこからニコニコ動画やPixivで派生してきたものもあるけど、全部「間違い」ではない。

 その話に至ったとき、僕のなかで仕事が見えてきた感じがしました。だとしたら、Appendのパッケージデザインは、全部をまとめてその先を表現するのではなくて、あり得る可能性を否定せず送り出せる立場として考えようと。

 Appendには6種類の声があります。元の初音ミクの声質がよくなりましたという話なら、「その先」という表現でもありかもしれません。でも6種類も声があるなら、「何にでもなれるし」「いろいろな可能性がある」という見せ方が合っている。でも、それをひとつに定義することなんてできないじゃないですか。


── そうした状況を踏まえて、どういったパッケージデザインに落とし込もうと考えたんですか?

浅井 どのミクも否定しない、むしろどれかのミクのために、捨てられてゆくデザインを目指しました。「前のデザインがこう変わりました!」という話ではなくて、「Keiさんのイラスト以前の、ありえたであろう、出荷前の状態」というイメージです。ミクのイメージの根幹にある最重要なKeiさんのイラストだけでなく、それ以外のいろいろな方が描かれたイラストも含めて、その卵や繭、包装紙になりたかった。

パッケージデザインの元となった浅井氏のフィギュア
服がめくれているのが印象的だ

── そうなるとデザイン的には制約がでてきますよね。

浅井 そうですね。卵や繭といっても、まったく初音ミクに見えないと困るので、Keiさんや様々な方が描かれた初音ミクに変わる経過のつもりでいます。お腹が見えているのは服が脱げていっている瞬間ですし、手足も白から黒に色が変わっていく最中です。

 何かの元になるデザインと見せるときに、例えばロボットなら、古そうな形にするとか、要素をなくしてシンプルに見せるという手法もありますが、ミクをメカデザインとして古典に持ってゆく事はできませんし、単純にシンプルにしていくと、「フリーザ様」の最終形態のように、強そうになってしまう。悩んだんですが、経過として「捨てられるデザイン」を目指しました。

 Keiさんが描かれた初音ミクの服は、捨てられることはない。むしろあの服も含めてミクです。一方、今回のコスチュームは、新車のシートに付いているビニールみたいなもので、脱ぎ捨てられて、何かの歌をインストールされることで、初めて初音ミクになっていく。あの脱げかけている服がはがれたら、Keiさんやみなさんが思うそれぞれのミクがいるんです。

 捨てられる立場なら、すべてのデザインの前段階に在ることができるんじゃないだろうか。どれも否定せずに済むんじゃないだろうか。そういう考えです。


── その方法は普段のフィギュアの原型師としての仕事とは大きく違いますよね。

浅井 アニメなどのキャラクターを立体化するとなると、作中でのキャラクターの要素を拾って、今度は造形物の中に要素を絞り込んでいくかということになります。ある程度ゴールが見えている上で、行き方を探るような感じなんです。

 でも今回は、議論の中で出たアイデアや要素を足しながら形が決まってゆくので、「ここがゴール」という場所が中々見えませんでした。最終的な形状は自分の美観にそってますが、漠然とした線はあまりなく、自分の中で意味合いを見出した形になっています。

 とはいえ、普段の仕事で、デザインを起こす仕事というのは多くありませんから、曲やイラストが生まれていく前の分水嶺に立つデザインを手掛けるという緊張感はすごかったですね。

佐々木 そうした浅井さんの原型を元に、作家の「ねこいた」さんにデジタルイラストを起こしてもらい、色を入れて加工していったわけです。このアナログとデジタルが織り交ざった様は、肉声とDSPが折り重なるVOCALOIDと境遇が似ているんですよね。

 ねこいたさんは化学に精通している人物で、物質単位の質感に過剰な興味とセンスを持っています。われわれの考えるVOCALOID制作に必要な「空気感」を作ってくれている方です。

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