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iPadが変える電子書籍の未来

どうなる、デジタル教科書――学習における学校図書館活用を

2010年05月08日 09時00分更新

文● 高橋暁子

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東京学芸大学学長の村松泰子氏と角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏による対談

 デジタル化の波は学校教育にどんな影響を与えるのか、21世紀の学校図書館に求められる意義は? そんな題材を取り上げる講座「学校図書館で変わる教育・教員養成」が、4月28日、東京・小金井市の東京学芸大学で開催された。

 2010年は国民読書年に当たり、政官民が一体となった読書活動の推進がうたわれている。さらに4月23日は、子ども読書の日にあたり、子供の読書活動に対する関心と理解を深めるためにさまざまなイベントが開催された。そんな中、学芸大も教育者を育成する大学として、改めて学校図書館の役割と活用方法について考える場を提供した形だ。

 また、学校関係者・図書館関係者だけではなく、児童向けレーベル「角川つばさ文庫」を展開する角川グループの関係者も産学連携の試みとして参加した。東京学芸大学学長の村松泰子氏と角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏による「編集力」をテーマにした対談が実現したほか、国内ではまだ発売されていない「iPad」の特別展示も実施され、多角的な視点から学校教育と図書館、読書について議論が進んだ1日となった。


編集力をどう身につけていくか

 今回注目を集めたもののひとつが、東京学芸大学学長の村松泰子氏と角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏による「子どもの未来と編集力」と題した対談。東京学芸大学の学長に今年から就任した村松氏は、NHKに勤めた経歴も持っており、放送や出版の分野の話題を広く取り上げながら、より実践に即した編集の意義についての議論が取り交わされた。

東京学芸大学学長の村松泰子氏

角川書店代表取締役社長の井上伸一郎氏

 冒頭で井上氏は「編集とは、たくさんの情報を集め、必要な物だけ残して、残りの情報を捨てるのが仕事」と現場の経験を踏まえて発言。それに対して村松氏は、「素材を十分集めて取捨選択するという意味では、我々も論文執筆など様々なところで編集している」とコメントした。

 井上氏は、編集者としての経験は経営にも役立つと話す。巨大メディア企業、ワーナーグループのトップに出版部門の人間が立ったことを紹介しつつ「経営者になっても、色々な情報を集めて捨てて、必要なものをストックするという編集の現場で培った訓練は役立っている。編集力は経営力」とした。

 一方村松氏は、1980年代前半にNHKが中国中央電視台と共同制作したドキュメンタリー「シルクロード」の裏話を披露。撮影した素材は、後に英国のBBCに提供され、BBC独自の編集による番組となったが、そのときの驚きについて語った。

 同じ素材を使った番組でもまったく異なるものに仕上がっていたためだ。そこには情緒的な風景描写の挿入を多用する日本的な手法と、あくまでも論理的にシーンをつなぎ合わせていくBBCのやり方の間の違いがあった。

 それぞれに持ち味があるが、「映像は時間メディアなので、つないでしまえばできあがったような気がしてしまう」と村松氏は話す。似たようなことはインターネットが普及した現在でも起こりうる。「ネットで収集した材料がたくさん集まるとつなげるだけでできあがった気がしてしまう」という指摘だ。

 インターネットは情報の宝庫だが、ただの情報の羅列になってしまう危険性もある。ここが編集を重視した既存メディア(例えば新聞)との大きな違いである。一方で編集によってそぎ落とされていることもある。今後はより価値判断やメディアリテラシーが重要となり、「一般の方も、編集力を磨いていくことが必要」とした。

 井上氏は、角川つばさ文庫にもラインアップされている「ぼくらの七日間戦争」にも触れた。同作品が1980年代に映画化された時には中学生が親や教師に反旗を翻すストーリーが反教育的とされたが、現在は親が子どもに勧め子どもも喜んで読んでいるという。「時代によって教師や親の価値観も編集の形も変わる」と同氏は話す。

 対談の最後に井上氏は、「図書館は本に触れる第一歩であり、活用は重要。子どもが本に触れる機会を多く作ってほしい」とまとめた。村松氏は、「今後は問題解決型の探求力が必要になる」と指摘。そのために読書は重要であり、「教育により本が活用されることを期待する」とした。

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