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Windows 7対応の裏側に見た国内ISVの秘めた実力 第16回

国内メーカー11社を取材して得た現場の本音

Windows 7 ソフト開発最前線からの目線(下)

2010年05月07日 09時00分更新

文● 塩田紳二

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マイクロソフトとのコミュニケーション頻度は?

 今回取材したソフトウェアメーカーは、いち早くWindows 7対応を果たしたこともあって、普段からマイクロソフト関連のセミナーなどに積極的に参加している企業ばかりかと思っていたが、さにあらず! 中には、マイクロソフトとはほとんどコンタクトを取っていないというところもあった。開発に必要な情報が不足しているにもかかわらず、機能を自力で開発・実装してしまったり、マイクロソフトから提供されるモジュールを自力で修正するといった高い技術力を持つところもあった。

 現状、一般的に入手可能なマイクロソフトからの開発者向けの情報は、MSDNやTechnet、マイクロソフト主催の各種イベント・セミナーなどに限られる。ほかにマイクロソフトとの接点がない場合、こうした「公式」ルートからの情報に頼るしかない。もちろん、それでも十分にソフトウェア開発は行なえるだろうが、今回のWindows 7のようにOSのメジャーバージョンアップが行なわれる場合、β版の段階から開発を進めるには、公式ルートのみでは情報不足を感じることもしばしばある。

 また、新機能でもハードウェアに依存するもの(マルチタッチ機能やセンサー機能など)については、事前に動作検証できる機種が限られたり(そもそもソフトウェアメーカーが入手できるかどうか)、デバイスドライバー側の完成度に起因する問題が起こり得るなど、必ずしも開発に必要な情報が公式ルートからだけでは入手できないケースもある。

 実際、今回の取材ではマイクロソフトとコンタクトのあるメーカーは、新機能などの実装において、マイクロソフトに直接質問を送っていたところもあった。

 マイクロソフトほどの規模の企業になると、どこの国でも大半のソフトウェアメーカーが関連するビジネスを行なっているため、どうしても「公式」ルートでのつき合いのみになりやすい。また、国によってビジネススタイルや商習慣に違いもあることから、開発者とのコンタクトは、ローカルなやり方に従うべきだと思われる。そういう意味で、日本のマイクロソフトにも、日本独自の開発者向けプログラムなどが必要ではないだろうか?


ソフトウェアメーカーの技術力

フォトロンのCADソリューション部開発グループ長の権藤浩喜氏

Visual Studioのサービスパックに含まれているフレームワークを、自分たちで改良して反応速度と機能の両立を果たしたという、フォトロンのCADソリューション部開発グループ長の権藤浩喜氏

 今回取材した中で一番驚いたのは、ソフトウェアメーカーというかソフトウェア技術者の高い技術力だった。開発情報のドキュメントが不足していても、それを元にして一晩で新機能を実装してしまう。あるいは独自のフレームワークを作り上げる。提供モジュールに再現性のある不具合があれば、それを回避するべく修正する――といったことをあっさりと言ってのけるほどで、ソフトウェアメーカーの技術者の高い力量には、正直驚かされた。

 ただ、そうした努力はパッケージソフトウェアそのものからは見えないし、メーカーのWebサイトを見てもわからない。開発スタッフの技術力の高さを宣伝しても、それがビジネスに結びつくとは限らないからだ。しかし、ソフトウェアの中身(プログラム)は、結果として画面上に現われる仕様や機能だけでは判断できないものだと、改めて考えさせられた。

 そこで感じたのは、WindowsやVisual Studioといった開発環境は、開発者の高い技術をストレートに引き出したり、有効に使うのために、まだまだ足りない部分があるということだ。

 ソフトウェア開発に関する技術力を製品や企画、そして機能などにもっと発揮させるためには、それにふさわしい開発環境が必要だ。その観点で見直すと、Windowsや関連する開発製品群には、まだまだ機能不足なところがある。マイクロソフト自身もいろいろな製品を作るなかで、開発者の想像(創造)力に追いつけていない部分がある。

キヤノンITソリューションズの尾花俊孝氏

Silverlightの業務アプリを、ほぼゼロから作りあげたキヤノンITソリューションズの尾花俊孝氏(製品はエス・エス・ジェイの「SuperStream-NX」)

 たとえば、今回取材したあるメーカーは、Silverlight上で業務用アプリケーションを開発したが、そのためにフレームワークをゼロから独自に作り上げている。Silverlightというと、バージョン3から4にかけて開発環境が整ってきたが、当初のバージョンでは、Webページに動画コンテンツを埋め込み・再生するといった機能や用途に限られていた。だが、Webアプリケーションが着実に広まった現在では、ひとつのプラットフォームとしてさまざまな用途が考えられるわけで、ビジネスやエンタープライズ分野を含む、既存のほぼすべてのアプリケーションが利用可能だし、今までなかったカテゴリーの製品さえも登場してくるはずだ。

 しかし、現状は多くの場合、そのためにゼロに近いところからアプリケーションを組まねばならない。例えて言えば、ミドルウェアやフレームワークなしにWindowsの上で直接アプリケーションを開発するのと同じ。マイクロソフトにはまず、開発に必要な既存製品や技術情報を少しでも早く・広く提供してほしい。そして次に、こうしたソフトウェア開発の現場の声を吸い上げて、ミドルウェアやフレームワーク、開発ノウハウの共有化や有効活用が図れる環境を作り上げてほしいものだ。

 さて、各社を取材した印象をまとめたところで、次回はマイクロソフト自身にインタビューを行ない、Windows 7のソフトウェア開発レポートのまとめとしたい。

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