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ゼロからはじめるバックアップ入門 第1回

大切なデータを守る術を知ろう

バックアップはなぜ必要なのか?

2010年05月27日 09時00分更新

文● 伊藤玄蕃

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リカバリを意識する

 「保険としてのバックアップ」は、データをバックアップ元のコンピュータにリカバリ(復旧)するために行なわれる。リカバリできない、すなわちデータが元に戻らないバックアップは、まったく意味がない。上に挙げた4つの事象は、それぞれリストア時の条件や環境が異なるため、別々の技術・ツールを必要とする。つまり、バックアップ計画を立てて必要な機材を準備する際には、同時にリカバリの具体的な計画まで立てる必要があるのだ。

 リカバリ計画は、RTOとRPOの2つの概念を軸にして立案する。RTOは「Recovery Time Objective(目標復旧時間)」の略で、復旧までにどれだけの時間をかけるかの目標値を指す。RPOは「Recovery Point Objective(目標復旧時点)」の略で、過去にどれくらい遡ってデータを復旧させるかの目標値だ(図1)。RTO・RPOともに障害発生からの時間で表示し、たとえば、RTOが5時間/RPOが1日であれば「障害発生から5時間以内で、障害発生時点から1日前のデータに復旧する」ということになる。

図1 RTOとRPOの2つの概念を軸に考えるリカバリ計画

 両者ともに0に近ければ近いほどよいのであるが、当然ながら、0に近づけようとするほど費用もかかる。よって、この2つの目標値は、費用対効果を考えて決定しなければならない。また、前述の4つの局面のそれぞれに対しては、異なるRTOとRPOを設定してもよい 。単なるハードウェアの故障と災害とでは、対応方法や費用はまったく異なるので、すべてを統一する必要はない。

証拠保全のためのバックアップ

 従来、バックアップといえば「保険のためのバックアップ」であった。しかし、21世紀になって「証拠保全のためのバックアップ」が行なわれるようになってきた。これは、コンプライアンス(法令遵守)や内部統制評価といった、企業活動を監視・統制するために必要とされるバックアップである。一般によく知られている例としては、「インサイダー取引の監視のためのデータの保管」がある。

 これは、証券取引等監視委員会(Securities and Exchange Surveillance Commission:SESC)が、証券取引所や証券会社に対しすべての株式の取引データを一定期間保存することを義務付けたものである。証券取引所や証券会社は、これを受けて、株式の取引データを長期に渡って保管している。そして、証券取引等監視委員会は「インサイダー取引があった可能性が高い」と判断したら、ある銘柄のある期間の取引データを証券取引所や証券会社からすべて取り寄せて、本当にインサイダー取引なのかどうかを捜査するのである。

 ここで、「証拠保全のためのバックアップ」と「保険のためのバックアップ」との違いを考えてみよう。まず、「保険のためのバックアップ」は障害時にデータを復旧させるのが目的であるから、つねに最新のデータを保管しなければならない。そして、最新のデータをバックアップできれば、それより前の古いデータは不要となる。すなわち、磁気テープなどのバックアップ媒体は、上書きが可能で使い回しができる。

 一方、「証拠保全のためのバックアップ」では、後々行なわれる監査や捜査に備えて長期間に渡り変更することなく、つまり「改ざん」が不可能なように、保管しなければならない。すなわち、最新のデータをバックアップしても、古いデータを消すことができない。つまりバックアップ媒体の使い回しができないのである。

 「証拠保全のためのバックアップ」では、データの改ざんや人為的ミスによるデータ削除からデータを保護し、バックアップしたデータがコピー元のデータと一致することを保証する仕組みが必要とされる。これを「アーカイブ(Archive)」と呼び、バックアップとは区別することもある。

 また、証拠保全のためのバックアップ(アーカイブ)では、バックアップを行なう組織(企業)と、バックアップされたデータを活用する組織(行政や監査法人など)が異なることがある。この場合、特別なプログラムを使わずにデータを読み出せることが必要とされがちだ。すなわち、テキストファイルやPDFなどの形式での保存を指定されることがある。バックアップデータがそのまま読めるためリカバリ手段を考える必要はないが、バックアップの際にはデータを出力形式に応じて整形するプログラムを利用しなければならない。

 今回は、バックアップの必要性や目的について整理し、実際にバックアップ計画を立てる上で重要なポイントを紹介した。次回は、バックアップの構成要素について概説する。

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