「音楽理論」ではなく「グルーヴ感」にあわせて生まれた電子楽器
―― iELECTRIBEもかなりリアルタイム性が重視されているみたいですね。
金森 オリジナルのELECTRIBE自体が、最初からリアルタイム性を重視した設計でした。「録音したら一度止めて再生」というシーケンサーが主流だった頃に、止めずにパターンを作れるもの、という方針で設計したので。
―― その意図が拡張されてこの形になっているわけですね?
金森 とことん拡張されていますね。
―― 今回、ELECTRIBE・MXとSXもSDカード仕様になって、生産が継続されます。これはELECTRIBEのインターフェイスがユーザーに支持され、楽器として普遍性を帯びつつあるという意味だと思うのですが、結果的にロングセールスになった理由は何だと思いますか?
金森 ももともとこのジャンルの製品群は、すべて制作系の楽器だったと思うんです。パターンを作るのが目的。でもELECTRIBEはその過程に面白さがあるんです。リアルタイム性であるとか、メニューの選択を減らして、なるべくパラメーターをツマミとして外に出したこと。それが何につながったかと言うと、演奏だったんですね。
―― DenkitribeさんのYouTubeでのパフォーマンスもそうですよね。
金森 それまではELECTRIBEの演奏面の楽しさが、世の中に伝わってなかったのかも知れません。
佐藤 個人だけの楽しみだったものが、その制作過程をYouTubeで皆に見てもらえるようになった。それでELECTRIBEという楽器の面白さが知られるようになったんだと思います。
金森 それと設計側が意図しなかった使い方としては、まっさらな状態から曲を作っていく過程を見せることですね。
―― いわゆる「ビートメイキング」ですね。
金森 ある程度作ったものを操作して演奏することは意図していましたけど、あれはすごいですね。
―― 楽器のインターフェイスは、白黒の鍵盤のように「音の側の理屈」で成り立っているわけです。でもELECTRIBEはグルーヴを作るための道具として独自の進化をしながら、iELECTRIBEの段階まで洗練されて来ているわけですよね。インターフェイスの生成のされ方として、非常に興味深いです。
井上 シーケンサーのマトリクス※と、ツマミが同居しているのがポイントだと思います。シーケンサーのマトリクスに収まらない、ダイナミックな変化を入れるインターフェイスが同時になければならないので。
※ シーケンサーのマトリクス : 横並びになっているマトリクス(盤状のボタン)を操作して演奏パターンを録音/再生するための機構