1990年代、第1次ARブームが巻き起こる!
1990年初頭になると本格的にARの研究が始まった。暦本さんが研究を始めたのも1990年代だという。この頃がARの第1次ブームと呼ばれる時代である。例を挙げると、コロンビア大学ではレーザープリンターの修理でトレーや部品が筐体の中でどのように入っているのかを、赤いCGで現実世界に表示させるという研究を行ない、現実と仮想をオーバレイさせる研究が確立された。ただ、この頃はプリンターのパーツを現実に映し出すことで「こういう風にプリンターが直せますよ」と教えるために、教育やメンテナンスといった方面で、ARの利用が想定されていたのだ。
というのも、1990年代のARを実現するためには、大がかりなコンピューターが必要だったため、まだエンターテイメントにARが使える素地が整っていなかったのだ。そのため、メンテナンスや医療、そして軍事などの用途を想定して研究されていた。
たとえば軍事面だと、兵隊がヘッドマウントディスプレーをかぶっていると、夜でも山の向こうに戦車が見えるようになるとか、メンテナンスの分野ではとてつもなく複雑な飛行機の構造を把握して修理するなど。1990年代はある意味、ARの第1次ブームであり、中興の時代だったと言えるだろう。
そして、暦本さんはこの時代、「人間が何かコンピューターの力を借りないとできない複雑なことをどうやって直感的に見せようか」ということを、PCのディスプレーではなく自分の視覚に直接映る方法で見せてあげたい、というARの考え方が立ち上がってきたのだという。
AR技術につきまとう困難と、マーカー型AR
ARの研究が盛んになっていた1990年代。拡張現実の開発に技術的な困難が立ちはだかっていたのである。それは「位置あわせ」。ARでは、「自分が見ているものは何なのか」や「どっちを見ているのか」などを検知して映像を重ねるが、ちょっとでもズレてしまったらデータの現実感を感じられなくなってしまう。VRはすべてコンピューターで作りこんだ仮想世界に入るいっぽう、ARは現実に何がどう見えるかを実現させるため、位置認識をかなり精密に作らないといけない。先のコロンビア大学のレーザープリンターの研究では超音波センサーを使って位置あわせを行なったという。
そんな中、暦本さんの研究でブレイクスルーが起きる。15年前、もちろんiPhoneもカメラつき携帯もない時代に、液晶のハンディモニターにビデオカメラを接続し、カメラつきモバイル機器のように仕立てて、ワークステーションのコンピューターにつなぎ、ARの研究をやっていたときのこと。簡単なカラーコードでマーカーを作り、マーカーを検知したらどんな情報を出せばいいのかを認識させるというシンプルなシステムを生みだしたのだ。また、マーカーと機械の中のジャイロセンサーを使い、たとえば左を見ると空中に矢印が浮いているような感じがつかめるようになった。
暦本さんによると、元は3次元磁気センサーという、VRでよく使うセンサーを使っていたそうだ。しかし、磁気センサーは高価なうえ、物体の位置しかわからず、「ここに何を出すか」というのは他の手段で決めなければいけなかった。だが、マーカーがあることで「物体の前にいる」とか「その物体をこっちから見ている」ということが計算でき、現実と電子情報がオーバーレイしやすくなったそうだ。
さらに暦本さんは、QRコードのように四角の図形を使ったマーカーを開発。すると、四角の部分が真正面から見ると正方形に、ナナメから見ると台形に見えるけど、どういう風にひしゃげるかをカメラを通して確認することでその位置関係が計算でき、あとはCGをそこに出すということが可能になったのだ。また、マーカーは同時にバーコード的な領域もあるので何を位置づければいいのかという「ID」がわかるそうだ。位置関係と「ID」の識別が一発でできるのが、マーカー型ARのシンプルですごいところだ。
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