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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第2回

文化通信・星野編集長に聞く

「出版」=コンテンツベンチャーの理念に立ち返れ

2010年04月16日 13時00分更新

文● まつもとあつし

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増床の一途を辿っていた書店も急降下

書店増床・減床面積の推移(「文化通信」作成)

星野 また、書店はここ数年、ショッピングセンターへの出店が過熱していたのですが、2009年は、一転その動きが止まりました。景気の問題もあるのですが、ここまで見てきた書籍・雑誌部数の下降トレンドを見越しての動きです。

 グラフを見てわかる通り、これまで増床が減床を上回ってきたのですが、これが逆転した形です。

 この状況は、出版社の今後にも大きく影響します。ここ数年出版不況と言われながらも、出版社の数は実はそれほど変化がありませんでした。店舗の面積が増えるということは、すなわちそこに並べる本や雑誌の数も増える、ということです。実需要がどうであれ、流通する商品は増える傾向にあったので、出版社にとってはむしろ良い時代が続いていたといえます。

 ところが、今後、人口の減少・電子出版へのシフトも見込まれる中、これ以上店舗は増床をしません。また、後ほど詳しくお話ししますが、日販をはじめとする取次(出版と書店の中継ぎをする流通業者)が、「配本規制」を始めています。これによって、出版社はこれまでのように大量に新刊を流通させて売上げを確保する、ということが難しくなるのです。

「本当の意味での出版不況は“これから”やってくる、というのが正しい認識だと考えています」


取次にはもう余裕はない

 一般消費者である私たちが普段あまり意識することのない「取次」。出版社と書店の間を取り持つ流通業者だが、これから予想される「出版不況」に与える影響は極めて大きい。

――出版社に不況の波が押し寄せなかった理由は書店の増床も一因ですが、これまでは取次が出版社と書店の間に入って、出版社から本が届いた時点で入金をしたり、また配本を出来るだけ多く行なう一方、返品はできるだけ抑制するという形で、ある意味メーカーである出版社を支えてきたことも大きいと思います。今後は取次がその機能を果たしきれなくなる、ということでしょうか?

星野 「新刊見計らい」という、実際には書店の注文がないのに配本し、一方書店側はいつでも返品して良いという、日本独自の仕組みがあります。これは戦後、日本の出版産業を世界屈指の規模に拡大する原動力となりましたが、市場が飽和した今日、先ほどの返品率上昇の一因となってしまっています。

 ただ、新刊の点数が増えたから返品が増えたというのは誤解です。

 どういうことかというと、流通に委託をした時点で例えば翌月入金という具合にお金が入ってくる「条件払い」という仕組みがあります。この手が使えるのはいわゆる大手・老舗の出版社に限られていますが、名前が通った出版社が倒産する原因は、出版不況ではなく、この仕組みに依存した自転車操業であることがほとんどなのです。

 私も長くこの業界におりますが、“本が売れなくて潰れた有名出版社”なんて聞いたことがないんですよ(笑)。

 一方、新興の出版社はこのような仕組みに参加できません。逆に返品を見越した一定費用を先に取次に支払う(歩戻し)という制度もあるため、取次の委託配本ではなく、自ら書店に対して営業して注文を取ってくるほうが得だという判断もあるくらいです。大手・老舗がある意味「条件払い」という既得権を持っている中、そこには参加できないわけです。

 いずれにせよ、このような制度上アンフェアな部分が元々あったところに、需要が右肩下がりになってきて、取次にもこれまでの商習慣を維持する余裕はなくなったというのが、現実だと思います。


もし取次がなくなると、出版社の半分以上が消えてしまう

――KindleやiBooksでは、そもそも取次が現在のところ存在せず、「売れた分だけ、手数料を引いて支払う」という非常にシンプルなモデルです。リアルな流通でもそういった動きはないのでしょうか?

星野 それはないと思います。現状、取次は、後ほどお話しするPOSシステムも活用しつつ、いかにロスを少なくするかに知恵を絞っている状況ですね。また、取次以外の経営の多角化を図る業者も増えています。

 取次というのはあくまで「モノを流す」というのが本来の機能です。ところが、先に見てきたような様々な制度上の矛盾も表面化しています。例えば、かつては条件払いにふさわしいモノづくりをしてきた出版社が、そうでなくなってきたとしたら、取次がその優遇条件を変えられるかどうか? といったことです。

 いずれにしても、現在の出版業界は取次が支えている部分が大きく、もし取次がなくなれば、日本の出版社の半分以上がなくなってしまうと思います。取次は出版と書店の間に挟まれて難しい立場にありますが、消費者が求める商品を仕入れて流通するという本質に立ち返ることが出来るかどうかが問われています。


電子出版に熱心なのは印刷会社

――取次が出版社を支えているにも関わらず、いわば中抜きとも言える電子出版が本格化しようとしています。取次は何か対策を立てているのでしょうか?

星野 研究や視察というリサーチの動きはもちろんあるのですが、具体的なアクションはこれと言ってまだ出てきていません。ビットウェイやモバイルブックジェーピー(いずれも電子書籍流通大手)にも出資していますが、資本比率は大きくない。

 むしろこの分野は大手印刷会社が熱心です。電子取次は彼らの所帯を支えるのは足りないし、大手CP(コンテンツプロバイダー)が配信業者と直接契約するいわゆる中抜きも進んでいるため、二の足を踏んでしまっているのかもしれません。しかし、書店・出版社の取引構造をもっとも理解(※)しているのは取次なので、そのアドバンテージを活かすことができれば、道が開けるかもしれないのですが……。

※例えば取次大手の日販は、契約出版社(約150法人)に対して流通状況をウェブ経由でリアルタイムで開示する「WIN+」を提供し、欠品と返品率の低減に成功している。

――先日発足した日本電子書籍出版社協会にも取次業者は入っていませんでした。

去る3月24日に設立会見を行なった日本電子書籍出版社協会は、電子書籍市場の発展と課題解決を図るべく出版社31社によって設立された

星野 出版社から見ても、そこでの取次の役割というのがまだ見い出せていないというのが実情ですね。先行する携帯コミック配信でも出版社と配信事業者の直接取引も相当数ありますので。

 レコードがCDになったときのようなドラスティックな変化が訪れるとは、まだ見ていないということも影響を与えています。

 仮に電子出版によって、取次のビジネスにマイナスの影響があったとしても、10年後に1割から2割減と考えられています。ロスを減らし、組織のリストラを図るなどの方策で、当面の打開策を探っていくことになるでしょう。他方、出版社は相乗効果で紙にもプラスの影響が出てくることを期待していますね。

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