“本が売れなくて潰れた出版社”なんて聞いたことがない
「黒船」の到来と、「無料」を入り口とした消費行動の変化は避けようがない。それを逆に活用できるような、ビジネスモデルや組織の転換がすべての業界・領域で迫られている。
では、いったいどうすれば、そのようなパラダイムシフト(当然と考えられていたことの認識や価値観が劇的に変化すること)を受け入れられるのだろうか?
本連載ではまず既存の書籍・雑誌の分野に注目したい。まもなく日本でも発売となる「iPad」(関連記事)は電子書籍の市場をかなり刺激すると見られている。そして前回まとめたように、プラットフォーム(のみならず販売の窓口まで)において、AppleやAmazon、Googleに主導権を握られるという危惧もある。
悲観論から脱するには、まず現状を正しく認識する必要がある。そこで今回は、長年に渡って出版業界の最前線を取材し続けてきた業界紙「文化通信」の編集長・星野渉氏に詳しく話を聞いた。氏は「文化通信」編集長のほか日本出版学会理事、東洋大学非常勤講師を務めている。
星野氏は言う。「いままで“本が売れなくて潰れた出版社”なんて聞いたことがない」と。
本格的な出版不況は「これから」やってくる!?
――「出版不況」という言葉を、一般の人もよく耳にするようなりました。実際この業界はどのような状況にあるのでしょうか?
星野 長期のトレンドを把握するために、出版科学研究所のデータから文化通信が作成した、雑誌・書籍の販売部数ならびに販売金額のグラフを見ながら説明します。まず、書籍について見てみましょう。
終戦直後の1950年から記録を取っていますが、実は1988年(21年前)に部数ではピークを迎えています。販売金額は書籍の単価にも大きく影響を受けますので、「書籍」という商品にどのくらいの需要があるか、という観点から我々は部数に着目しています。いわゆるバブルのときと比べてそこまで落ち込んでいるという風には見ていません。横ばいの状況ですね。
ピーク時には9億4000万冊を超えていますが、これは全国民が1年間に10冊近く本を買っていたということです。逆に言えば、これは需要としてはかなり特殊な状況だったと言えるでしょう。
ちなみに昨年1年間の新刊の発行点数は7万8555点(自費出版等も含む・取次を通るのはこの中の約6万点とされる)となっており、これは前年比2.9%増となっています。返品率はここ数年高止まりの状況にあって、昨年は40.6%です。
次に雑誌を見てみましょう。
星野 こちらは部数のピークが1995年(15年前)です。週刊少年ジャンプで「ドラゴンボール」の連載が完結したころですね。しかし、それを境に書籍と比較して急激な落ち込みを見せており、そのトレンドはここ15年続いています。返品率はこれまで書籍よりも低かったのですが、直近は36.2%に達しており、このままでは生産調整を行なわない限り、書籍の返品率を抜いてしまう恐れがあります。
極端に言ってしまえば、マスメディアとしての役割を終えつつある、と評価せざるを得ない状況です。
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