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松村太郎の“モバイル・ネイティブ”時代の誕生を見る 第6回

Androidアプリをデザインする理系女子

2010年04月13日 12時00分更新

文● 松村太郎/慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

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情報の授業でAndroidアプリのデザインをしてしまう

 さて、僕が最もびっくりしたのは、育英西高校の情報の授業内容だった。理系の進学をする彼女たちに、自分でものを作ることを情報の授業でもきっちりと伝えていく工夫がなされているのだ。

 その一つが、Androidアプリをデザインする授業である。

 授業ではタッチ画面で動作するスマートフォンなどを紹介した上でアプリの仕組みを学ぶ。画面に表示される内容と裏で動くプログラムの組み方を心得たら、あとは画面デザインとプロット図が書けるプリントに、自由にアプリをデザインしていく。

 と、授業の流れをサラッと書いたが、そもそもタッチスクリーン上のアプリをデザインすることが、非常にスムーズな流れで展開されることに驚いた。確かに画面に触れて機能するタッチスクリーンのアプリの直感性には疑う余地がないが、それをデザインするところからして、彼女たちには何らかの「直感」があるように感じた。

堀川先生

育英西中学校・高等学校で入試広報部、国語科、書道科、情報科を担当する堀川浩二先生。もともと書道の教員として入ってきて、情報を扱うというユニークなプロフィールの持ち主だ。Androidアプリ作りなどの授業方法もまたユニーク

 さまざまなアプリのアイデアが出てきた中で、クラスとしては「笑い袋」のアプリを作ることに決まり、改めて笑い袋のアプリのデザインのプリントが集まってくる。キャラクターデザインにこだわる生徒もいれば、笑い袋を楽しくするアイデアやアクションを入れる人、時計などの別の機能を加える人も出てくる。

 まるで、App StoreやAndroidマーケットを見て回って、工夫を凝らしたさまざまなアプリを品定めしているような感覚に陥るが、ここは女子校の授業中なのだ。

 もちろんアイデアから先の実装という作業が待っていて、インターフェイスとして心地よさ、使いやすさ、わかりやすさなどをチューニングする大変な作業が待っている。しかしここでも、彼女たちが持ち合わせているモバイルアプリへの「直感」が生かされそうな気がして、わくわくしてくる。

モバイルへの直感をいかに育むか

 授業の前にずいぶん驚いてしまった今回の出張授業だったが、Twitterの紹介と教室内での実験をしてみても、やはり彼女たちの直感、センスには脱帽だった。

 もちろん、ケータイ向けウェブのUIが整備されてきたこともあるが「URLを教えてアカウントを作って下さい」というところまで話を進めたら、隣の友達のアカウントを聞き始めて「フォローしてみればいいのかな」と、勝手にフォロー関係を結び始めてツイートし始めるからおもしろい。

 今までケータイで使ってきた他のサービスでの“ノリ”を心得ているからこその行動だと感じる。逆にノリでサービスに入り込んでしまうと、トラブルやコミュニケーションの取り方などをどこで吸収していくのだろう、と心配な面もある。しかしこれもまた「ノリ」と、今や若い世代の方が得意となった「空気を読む」センスが助けてくれると信じてみたい部分もある。

 「モバイルへの直感」は、彼女たちの世代のインフラというか、武器になると考えている。それだけ力強い感性であると感じた。この「直感」は、ケータイがある日常の中で、多数のサービスと人とのふれあいによって作り上げられていくものではないか。そして友人同士だけでなく、家庭や学校の中でも伸ばしていくべき感性だとも思う。そしてこれはケータイを使う、使わないに関わらず、育めるものだ。

 ただし中には「アクセス制限でTwitter見られません」という生徒も少なからずいた。これは正直盲点であったが、何を制限して、何を許可するか、という話し合いが家族で持たれるチャンスもまた教育ではないかと思う。


筆者紹介──松村太郎


ジャーナリスト・企画・選曲。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。嘉悦大学、ビジネスブレイクスルー大学でも教鞭をとる。テクノロジーとライフスタイルの関係を探求。モバイル、ソーシャルラーニング、サステイナビリティ、ノマドがテーマ。スマートフォンに特化した活動型メディアAppetizer.jp編集長。自身のウェブサイトはTAROSITE.NET


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