セカイカメラZOOMは、ガラパゴス生まれの両生類
―― ちょっと話がずれるんですが、渋谷駅ハチ公前のスクランブル交差点って、1回あたり約1500人が行き交うらしいんですね。で、そのほとんどがヘッドフォンをして音楽を聴いている。するとたった数回の往復で、そこにある「音楽」は近くにあるHMVのCD所蔵量を上回りかねないんですよ。
小林 そうですね、それがコンテキスト化されていない、オンラインで共有されていないのがネックなんです。
井口 「手をかざすだけでその人のライフログが見えてくる」というのが重要だと思うんですよね。渋谷であれだけの人数が集まって黙りこくっているのはちょっと変だという話もあります。田舎だとみんなお互いのことを知っていて、挨拶をするじゃないですか。
もちろんそれが単純にいいとは言わないけど、ぼくらが無言でうつむいて、集団生活の中でギスギスしている状態が、ちょっとしたきっかけで「あ、そんなこと考えてたんだ」というのが分かって解消するというのは、いいこともあると思うんですよね。
―― そこで、たとえば「おサイフケータイ」を導線にするというのは考えられませんか? 商品へのタッチを通じて、ソーシャルネットワークに入っていくという。
小林 面白いと思います。むしろ、どちらかといえばぼくは今まで「かざす」ということで、逆のことを考えていたんですよね。たとえば渋谷の大型スクリーンから新曲のPVが流れ、そこに「購入ボタン」が浮かんでいる。そこにみんながケータイをかざす。するとリアルの看板がすべて「レジ」になるという発想をしていました。
井口 「エアショッピング」という概念が当初からあったんですよ。最後に「支払い」という壁があることは事実なんですが、たとえば「Like.com」※というのがあります。そこではたとえば「アンジェリーナ・ジョリーはプラダのこのバッグを持っている」ということが出来る。それをARで現実空間に適用すればいいと思うんですよね。
※ Like.com : ストリートスナップショットの投稿サイト。写真の中で着こなしているファッションアイテムを、リンク先からすぐに購入出来るようにしているのが特徴。
―― いまは日本に海外から観光に来る方も多いので、そういう方にもエアタグ空間を体験してもらえるといいですね。
井口 そのとおりです。だから「docomoさんもカモーン!」ですよね。早く来てほしいですよ。ARの体験性はもともとオープンなものなので、キャリアの枠を超えて、みんなでマーケットそのものを作っていかないと、技術だけで終わってしまうと思うんです。
小林 そういう「ガラパゴス」なら大歓迎ですよね。「みんなが手をかざしてる国」。そこにはエアタグが浮かんでいる。みんなが見に来てくれる、オープンで美しい島国です。
井口 ガラパゴスということで言うわけじゃないんですが、以前、磯監督と話したとき「両生類」という言葉が印象的だったんですね。まだ陸にあがりきっていない生物としての「拡張現実」という。あらゆる角度から完璧な状態になってからではなく、とりあえず陸に上がれるなら上がっていくという両生類的な志向性を持ったスタンスが、今は非常に重要なんじゃないかと思ってます。