「コンテンツ立国」って本当に可能なの?
優れたハードウェア、あるいはその制作ノウハウを海外に輸出して儲ける産業に元気がない。経済産業省の言葉を借りれば「技術で勝って事業で負け」ている状態だ。
メイド・イン・ジャパンという言葉は、もはや家電製品やクルマではなく、日本の文化産業の輸出を指すのだと指摘する人もいる。「ものつくり」立国から「コンテンツ」立国への転換を図ろうという動きが、1990年代から産学官で盛り上がってきた。
しかし、コンテンツ産業がかつての電機・自動車産業のような躍進や規模感を見せているかというと、まだまだ道半ばという状況だ。日本が得意としてきた「ものつくり」の発想とは違うところでその成否が分かれることに私たちはようやく気づき始めている。
コンテンツのデジタル化、デジタル化されたコンテンツのネット流通、そして共有。
いくら丹精込めて作り上げたコンテンツも、いったんネットというチャネルに乗れば、限りなく価格がゼロに近づいていき、「良い物を作って、適正な価格で売る」という従来の方法では利益を上げることは難しくなっている。
無料公開の誘惑
この悩みにぴったりとはまったのが、ベストセラー『FREE』だ(日本語版の書名は『フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略』)。
新聞やニュース番組でも「フリーミアム」という言葉が繰り返し紹介され、まず無料で公開する、そしてその後で投資の回収を図るという古くて新しいビジネスモデルが脚光を浴びるようになった。
一見、希望に溢れた次世代流通の在り方のようだが、「本当にうまくいくのか? 最悪の場合、無料でコンテンツが消費されて終わりではないのか?」という当然の疑問に対して、明確な答えを示し切れていないのも事実だ。
そんな中、この『FREE』に敢然と異を唱えた人物がいる。
「FREE」礼賛論を疑え、を疑う。
岸 博幸氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授・エイベックス非常勤取締役)のコラム「日本のためにならない『FREE』礼賛論を疑え!」が話題を呼んでいる。
「フリーランチはない」「デジタルはコンテンツをタダにしない」と、徹底的にベストセラーFREEを否定する内容になっている。例えばこんな具合だ。
……許容し難いことを『FREE』は改めて言っています。“デジタル化されたコンテンツは無料になる”(content wants to be free)という考えです。この認識は根本的に間違っており、こうした認識が前提にある限り、そこから派生するあらゆる考察は間違いであると言わざるを得ません
……そうした“タダ”が蔓延した負の影響として、世界中で文化とジャーナリズムという社会のインフラが衰退しつつあることにも留意していただきたいと思います。フリーランチは存在せず、文化とジャーナリズムの衰退というタダの対価が明確になりつつあるのです
この主張にはあるいは意図的に誤読したようなものも見受けられる。例えば、フリーモデル=広告でコンテンツ・システムの費用を回収するというのは、FREEで述べられていることのごく一部を取り出しての批判に過ぎず、全否定には少々根拠に欠ける。
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