また始まったSIMロック論争
総務省は、SIMロックのあり方についてのヒアリングを4月2日に行なうことを決めた。SIMロックとは携帯電話用のSIMカードを特定のキャリアでしか使えないようにして顧客を囲い込む仕組みで、これについては「競争を阻害し、キャリアのメーカー支配を強めている」という批判も強く、キャリアが全量買い取って代理店に卸し、販売奨励金を出して「1円端末」を売る特殊な商慣行とともに携帯電話の「ガラパゴス化」をもたらしているとの意見があった。
これに対して総務省は、2008年に販売奨励金を廃止するよう行政指導を行ない、通信キャリアがそれに従った結果、「1円端末」が姿を消して数万円になり、2年程度の割賦販売になったため端末の買い替えが減って、「官製不況」などといわれた。ただこのときは、端末メーカーは泣いたがキャリアは小売店に払うリベートが減って増益になった。
その際SIMロックも問題になったのだが、キャリアの強い抵抗で総務省が譲歩したといわれている。それが今度は民主党政権に代わり、あらためて問題になってきたわけだ。特に原口一博総務相がSIMロック解除に意欲をみせており、少なくとも行政指導のような措置がとられるのではないかと見られている。
欧州の第2世代携帯電話では、ほぼ全域でGSMが採用され、国境を超えても同じ端末でSIMカードを替えるだけで使える。たとえばフランス・テレコムの端末を使っているユーザーがドイツに旅行したときは、ドイツ・テレコムのSIMカードに差し替えるだけで同じ端末が使え、しかもドイツの国内料金で使える。これによってノキアやエリクソンは欧州全域で同じ端末を売ることができ、規模の経済で価格を下げることができた。第3世代でも、ほぼ全域でW-CDMAが採用され、多くの端末はSIMロックなしだ。
これに対してアメリカでは、第2世代で各州ごとにバラバラの規格が採用されたため、いまだに混乱が続いている。日本は旧郵政省が第2世代をPDCというNTT規格で「統一」したため、キャリアによる垂直統合モデルができてしまった。これが第3世代にも持ち越され、通信規格は国際標準なのに、高機能・高価格で海外には売れないガラパゴスになってしまったのだ。
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