電波の開放に重点を置くFCCの計画
他方、FCC(米連邦通信委員会)は16日、「全米ブロードバンド計画」を発表した。インターネットの祖国でありながらブロードバンドでは後れをとったアメリカが、それを一挙に取り戻そうという計画である。オバマ政権の発足のとき、雇用創出策の一つとして環境やエネルギーが取り上げられていたので、この計画はその具体化といえよう。
この計画の概要を読むと日本と違うのは、光ファイバーという言葉がほとんど出てこず、規制改革や競争政策に重点が置かれ、最優先の政策として電波政策があげられていることだ。特に免許不要帯に多くの周波数を割り当ててイノベーションを可能にし、既存業者との競争を促進することが提唱されている。
さらに注目されるのは、10年以内に500MHzの周波数を新たに利用可能にし、うち300MHzを5年以内に移動通信に利用できるようにするという数値目標が明記されていることだ。LTEと呼ばれる次世代通信を使えば最大100Mbps出るのだから、アメリカのような広大な国土に光ファイバーを張りめぐらす必要はないのだ。また電波を開放する方法として、放送局が過大に占有している周波数を削減して、余った帯域をオークションにかけ、その収入を放送局にも分配するとしている。
これまで周波数オークションといえば、政府が割り当てを変更して空いた周波数を競売にかけるものだったが、これでは割り当ての変更に5年以上かかるので、私を含めて何人かの経済学者が、既存の免許人が自分の電波を他人に競売するメカニズムを提案していた。それがようやく実現に向かって動き始めたようだ。採算のとれない光ファイバーを国営会社(?)で敷設するより、周波数を市場メカニズムで有効利用するほうが有望だ。総務省もFCCの「市場志向」の電波政策を学んではどうだろうか。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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