中国の政治の一大イベント「両会」が行なわれている。両会とは、中国の最高権力機関で立法機関の「全国人民代表大会」と、中国共産党と経済界をはじめとした各界の代表者からなる「中国人民政治協商会議」の2つの会議で、この2つの会議が同時に行なわれる。例年、マスメディアでこそ大きく取り上げられるが、一般市民は興味を持たない感じだ。
だが、今年は違う。「ネットを使った腐敗監視」もテーマのひとつだが、さほど大きな話題とはなっていない。タイトル通り、「ネットカフェの国有化」の検討がネットユーザーの間で大きな話題となっている。
ネットカフェ国有化とは、すなわち既存の私営ネットカフェを一旦一掃した上で、ネットカフェをすべて公営、公共のものとするということ。これをネットユーザーが見逃すはずもなく、賛否両論が巻き起こっている。
ネットアンケートでは
意見が拮抗しているように見えるが……
ネットカフェ国有化を提案したのは、重慶の「陶然居」というレストランチェーンを経営し、中国人民政治協商会議の委員を務める厳琦氏(女性)。
3月2日の早朝、厳琦氏のネットカフェ国有化を訴える記事が登場するや、この記事は様々なメディアに転載され、注目を集め(中国の転載の習慣については「ものを考えない、中国のインターネット世代「憤青」」を参照のこと)、この話題に関する掲示板のスレッドでは非常に多くの書き込みが行なわれた。
中国では最も著名なポータルサイトの「新浪(Sina)」や「網易(NetEase)」では「ネットカフェの国有化に賛成?反対?」というアンケートも行なわれ、数千人規模のネットユーザーがアンケートに参加した。
数千人規模が参加するアンケートは、四川大地震や北京五輪絡みのアンケートほどではないが、それに続く程度の規模であり、普段そうそうこれほど大多数の人々が参加することはない。
アンケートの結果は反対派が賛成派をやや上回る結果に。政府に忠誠を誓う人々が賛成派となっているのだろうが、前回の記事「ネット世論の誘導という商売」で紹介したように、反対意見が出たときには賛成意見を多数書き込んで、賛否両論があるように見せることが日常的なので、この数字は参考程度にとらえるのがいいだろう。
記事が出た3月2日の夜と3月3日の午前中には、ハッカー(クラッカー)により厳琦氏の経営する陶然居のサイトが改竄された。これに応じて中国のWikipediaに替わる百科事典「百度百科」の「厳琦」や「陶然居」のページには、早くもネットカフェ国有化の提言の後、ハッカーの攻撃を受けた文章が追記された。
「天朝」とも揶揄する中国中央政府や共産党にハッカーが手を出した事件は過去にあまり記憶にないが、一企業の経営者兼国会議員的な人に対してはハッカーも容赦ないわけだ。
改竄された画面には「中華人民共和国万歳」と書かれていた。皮肉混じりだったとしても、文面は中国政府を支持しているわけで、正面きってたたきにくい。区画整理で立ち退きを迫られた人が中国の国旗を掲げるニュースもあるように、中国政府を支持する態度を表明することで保険がきく、ないしはお守り程度にはなっているわけだ。
サイト改竄後も、厳琦氏は「私はネットカフェ国有化を提言したことを後悔していない。あるサイトの調査によれば、65%以上の人が私の考えを支持している。大多数の賛同を得ているのだ」と強気のコメントをしている。
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