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山谷剛史の「中国IT小話」 第65回

ネット世論の誘導という商売

2010年02月23日 12時00分更新

文● 山谷剛史

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ポジティブな書き込みでネガティブイメージを払拭する
「網絡推手公司」

 全般的に中国製品の品質はお世辞にも日本よりいいとは言えないわけで、各企業のモノ作りやサービス提供の中で、日本のそれよりはネガティブな面がみえることは自然と多くなる。冷静に分析するなら、日本の製品よりは悪い部分が多いところがリストアップされるだろう。

 記者でなくとも、掲示板やブログに個人がネガティブな製品レビューをすることだって普通にある。中国では、そうしたネガティブな書き込みの火消しを行なうべく、ポジティブな書き込みを行ない、ネット上で企業イメージを上げる「網絡推手公司」というジャンルの企業が堂々と存在する。

 日本語でいえば、網絡推手公司は「インターネットPR企業」というのだろうか。この網絡推手公司は、顧客から仕事を依頼されると、顧客のポジティブキャンペーンを行なう。具体的にはまず、多くのアルバイトを雇い、多数のブログやBBSで提灯記事的書き込みを行なう。そしてネット利用者の注目度を上げ、さらに作り上げられたネットのブームにメディアを便乗させ、最終的には幅広い層にポジティブなイメージを植え付ける、という流れを目指す。

ある網絡推手公司のページ

ある網絡推手公司のページ

 網絡推手公司は常時、企業や製品の注目度アップのために使えるが、掲示板で突然発生した噂レベルのネガティブな書き込みにも活躍する。すなわち企業に対するネガティブな話題が特定の掲示板で発生した際、網絡推手公司は大量の人員を使い、その掲示板上で、バレないように企業を賞賛する書き込みを行なう。ネガティブな書き込みにポジティブな書き込みが数で圧倒することで火を消すわけだ。

 網絡推手公司の費用は方法により様々だ。たとえば掲示板にスレッドを立てるのと、スレッドに書き込むのでは、1回の書き込み費用は大きく異なる。スレッドに書き込みを1回行なうと5角(=0.5元。約7円)というのが、一般的な相場である。

 金銭単位の「角(元の下の位)」を口語で「毛」ともいう。「火消しのための書き込み代金」である5角こと「5毛」を百度の検索窓に入力すると、「5毛党」という言葉が検索キーワードの候補として表示される。

百度で5毛を入力

百度で5毛を入力

 これはネット上のスラングで、中国政府が雇った人々が、掲示板のネガティブコメントを打ち消そうと書き込む毎に5角もらえるという噂からできた言葉だと解説されている。企業や個人ですら、ネット世論誘導に網絡推手公司を使っているのだから、政府が行なっていてもなんら不思議ではない。

 今後中国は国力をますますつけ、世界に影響力をつけることは確実だ。中国国内では計略のために網絡推手公司が当たり前のように存在することは、中華街に母国と同じ生活習慣を持ち込むように、中国国外でも網絡推手公司が登場しても不思議ではない。

 中国国外で個人・企業・国のイメージアップのため、外国語が得意な同胞が掲示板やブログやSNSなどで本国同様のネット世論の誘導を行なうことが当たり前になる日が、近い将来やってくるかもしれない。


山谷剛史(やまやたけし)

著者近影

著者近影

フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で,一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。当サイト内で、ブログ「中国リアルIT事情」も絶賛更新中。最新著作は「新しい中国人~ネットで団結する若者たち」(ソフトバンク新書)

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