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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第65回

この缶詰、すごいぞ! 職人の技術と熱意をブログで配信

2010年02月08日 12時00分更新

文● 古田雄介

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自然の流れで「非マニアック」の正統派アプローチを採った

―― そこまで情熱を持ってブログを更新するモチベーションは、どう保っているんですか?

黒川 もう好きなんだろうね、単純に。それに読者やメーカーの方にも喜んでもらえるというのが、モチベーションになっていると思います。ブログを通して色々なメーカーの社長と話をする機会が増えたんですよ。社長から「黒川くんには缶詰業界をもり立てる影武者となって働いてもらいたい」と言われたこともあって……「影武者」ってちょっと言葉のチョイスを間違えてると思うんですけど(笑)。趣味で始めたとはいえ、やっぱり人の役に立てるのはうれしいですね。

―― 缶詰blogを読んでいても感じたのですが、すごく正統派のアプローチですよね。ニッチな趣味を極めたサイトやブログはサブカル視点の人が多くて、それが味になっていたりします。缶詰だったら「味はどうでもいい。それよりレアっぷりや、細かい突っ込みどころが好き」みたいな感じで。これは意図的ですか?

黒川 たしかに缶詰仲間と話していると、マニアックな視点のも多いかも。それを否定するわけじゃなくて、やっぱり好みなんですよね。自分は自分で「こういうふうにしよう」と考えたわけじゃないですが、メーカーの話を聞いていると、どういう理念に基づいて作っているのか知りたいという興味が一番強くわいてくるんです。それで今みたいなコンセプトになっているのかなと思いますね。一方で、このスタイルでやれるのは自分しかいないなという気持ちもあったりします。

黒川氏が「ねぎ鯖塩だれ」の対極的なイチオシ缶詰として紹介したのが、川商フーズが海外向けに製造しているGEISHA印の鯖詰。「数匹の鯖が縦に詰め込まれていて、真っ赤なトマトスープで満たされています。フタを開けると、いかにも『魚だ!』という感じでヌルッと出てくる。これが海外では好評らしいんですよ。日本だと、見た目がグロくて敬遠するという人もいますが、地域性の違いが分かる面白さがありますよね」とのこと

―― それはバックグラウンドにライター業があるからこそですかね。慣れていないと「知りたくなったから取材にいこう」となりにくいですし。

黒川 あ、それはありますね。普段から分からなかったら取材に行けばいいやと思いますもんね。行ったら行ったで、いい缶詰があったら「もっとアピールすれば、話題を集めるのに」という気持ちもわいてきて、しっかり紹介したいというふうにもなります。やっぱり、缶詰業界は歴史的に華々しいPRをしないところがありますから、「よし、俺が」という思いも芽生えたりして。

―― ただ、ブログって基本は無報酬ですよね。それでも本業と同じように手間をかけて取材するというのは、すごいことだと思います。なにか戦略みたいなものがあるんですか?

黒川 「くらぶアミーゴ」は、誰かに見つけてほしいという気持ちもこめて、旅行記やエッセイを書いたりしましたが、缶詰blogに関しては特に考えていませんでした。お金になるなんて思いもなかったですし、現在は色々な商業誌で缶詰に関する記事を書かせてもらっていますけど、それでも生活費の足しになる程度。「缶詰博士で生計をたてよう」なんて無理な状況ですからね。

 取材に行くのもブログを書くのも全部持ち出しでメーカーには「缶詰業界のために私利私欲を捨てて頑張ってくれてる人だ」くらいにしか思われていないでしょうから。メーカーから試食の缶詰が送られてくるようになったのはうれしいですけどね(笑)。

 だけど正直、何かしらの方法で収入が得られる仕組みを作れたらいいなとは、最近考えてもいます。ビジネスの道筋が何もないところに切り込んでいくわけだから、うまく道を造らないと手間をかけてもお金が入る構造になりません。ここは難しい部分ですよね。

自宅のクローゼットには、メーカーから送られた試食用の缶詰がごっそりと入っている。その数は200個以上とのこと。「突然の災害に見舞われても、とりあえず食はつなげそうです」と笑う

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