日本の缶詰は実はものすごく美味しい
―― 黒川さんはブログをただ更新するだけでなく、色々なブロガーと交流したり缶詰メーカーと連絡を取り合ったりされていますね。このスタンスははじめから決めていたんですか?
黒川 コメントのやりとりが面白いと最初期に分かったので、ブログ仲間とのやりとりはすぐにやりましたね。コメントは自分が仲間のところに行かないと返ってこないと気づいて、なるべく多くの人をフォローして、コメントを書きつつ「良かったらウチも見てください」とアプローチしていました。それが第一段階ですね。
メーカーさんと連絡を取り合うようになったのは2008年からで、最初に取材させてもらったのが2009年1月です。2008年の春に、缶詰メーカーさんから「こういう新商品を出そうと思うんだけど、ぜひ試食してください」とサンプルが送られてきたんです。それで自分なりに感想を送ったのがきっかけで、こちらからも取材をお願いするようになりました。
取材を重ねるうちに、とにかくすばらしい企業がたくさんあることが分かったんですよ。ものすごい技術力と熱意があるんです。「他社でこういう商品があって、美味しかったんですよ」と話すと、どこの会社でも「でもウチの方が絶対うまいから」と必ず返すんです。熱いですよね。そういう熱意にふれ、どんどんのめり込んでいきました。
―― 自社製品に情熱を持っている人の話は面白いですよね。具体的には、今はどんな技術がよく使われているんですか?
黒川 たとえば先日、焼き鳥の缶詰で有名なホテイフーズコーポレーションを取材したんです。そこで紹介されたツナの缶詰が衝撃的でしたね。普通のツナ缶はツナと水や油で満たされているじゃないですか。ところがそれは「高真空缶詰」という技術を採用していて、中にツナだけしか入っていないんです。液体がほとんどない。
それでフタを開けると、削りたての鰹節のように芳醇な香りがするんですよ。ツナがとにかく新鮮で、普通のツナ缶ももちろん美味しいけど、もう別物という印象で。メーカーの方も「風味が全然違うので食べ比べてください」と熱く語っていましたけど、そのとおりの出来映えでしたね。
高真空缶詰自体は海外メーカーが1985年に開発したといわれる技術で、同社がツナ缶に採用したのは約2年前だったそうです。日本の缶詰メーカーは、そういう技術をアレンジしてより高品質な商品を作るように情熱を注いでいるんですよ。総合的な技術力はたぶん日本がトップレベルだと思いますね。なにしろ全世界で1200種類の缶詰があると言われているうち、800種類が日本製といいますから。
―― 圧倒的ですね。正直、缶詰ごとにそれほど差があることも知りませんでした。
黒川 そうでしょ。先の高真空缶詰方式のツナ缶も、缶詰好きな人のなかでも「これはスゴイ」という評判も特に起きていませんでしたし、ネットでもマスメディアでも缶詰の味の違いを言及する声があまり出てこないんですよ。
日本の缶詰メーカーも職人気質なところが多くて、「宣伝にかける金があるなら、技術に回す」という感じで、新製品のアピールが控えめだと感じることがよくあります。だからこそ、微力ながらもっともっと伝えていきたいという思いがありますね。缶詰についてあまり知らなくても、食べたら誰もが違いを感じるものもたくさんありますから。
試しに、ちょっとコレを食べてみてください。茨城にある高木商店という会社の「ねぎ鯖塩だれ」という商品です。鯖の煮付けにねぎをそえた缶詰なんですよ。
(取材一同、「ねぎ鯖塩だれ」を試食してみる)
―― ……これ、美味しいですね。調理されたばかりの味がします。鯖もねぎも歯を使わなくていいくらい柔らかくて驚きました。味付けが薄口で、ねぎの香りが普通に効いているのもすごい。小皿に盛られたら、缶詰だとまず気づきませんね!
黒川 缶詰特有のくさみがないんですよね。素材にもすごくこだわっていて、銚子港に水揚げされた寒サバと、地元・茨城の長ネギを使ってます。それに、缶詰というのは製造ノウハウのかたまりでもあるんです。
普通は缶の中に生の材料と調味液を入れたあと、中の空気を抜いてフタを閉じているんです。それらを殺菌釜という巨大な釜に入れて加熱殺菌して作っていますが、そのときの熱加減が絶妙なんですよ。加熱しすぎると中身が柔らかくなりすぎちゃいますが、加熱が足りないと殺菌しきれない。ちゃんと殺菌したうえで、食感を最大限に保つよう、メーカーは工夫と研究を重ねているわけですね。
そうやってすごくこだわっているのに、普通に食べて「おいしかった」で終わるのはもったいないじゃないですか。そこで、ブログでは単に食べたレビューだけでなく、「実はすごいんですよ」ということを色々と解説していこうと心がけています。
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