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あえてインライン入力非対応を選んだ

異端児Baidu Typeは「楽しい」IMEを目指す

2010年01月26日 10時00分更新

文● 松本淳

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IMEは「靴」のようなもの?

 リリース直後のBaidu Typeの印象は「正直まだ仕事には使えない」というものだった。今年中に予定されているという機能向上を待たなければその感触を翻すことはできない。

 しかし「インライン入力や高性能であることが必ずしも重要ではない利用シーンもある」など、いろいろなことに気付かされたインタビューでもあった。

 Google日本語入力(関連記事)や、まもなく発売となるATOK 2010の取材記事(関連記事)などを通じて、思いついたことがある。

 IMEは靴のような存在だということだ。

 我々のように5000文字、1万文字を日常的に、それも締め切りに追われながら書かなければならない者にとって、IMEに求めるモノは高い山に登る装備のようなヘビーデューティーな「性能」だ。しかし、携帯での文字入力をスタートラインとして考えると、評価軸は性能ではなく、稲垣氏が言うように「楽しさ」「面白さ」にあっても良いのかも知れない。雪山登山に対して、ハイキングに求められるものが違うのに似ている。

 ATOKは、企業での利用も想定しながら「日本語の変換・入力効率を高める」ことにストイックに取り組んでいる。Google日本語入力はウェブの集合知による辞書の鮮度が売りだ。自社OSへの搭載も当然視野に入れているだろう。

 取材中、ホワイトスペースという言葉が印象に残った。Baidu Typeは、これら二者がまだ足を踏み入れていない領域を目指している。「携帯がITの入り口だった世代が、同じ感覚で楽しく使えるIME」を目指しているという印象を持った。

 共通するのは「IMEとはこういうもの」という固定概念が定着してしまったこの分野に、イノベーションを起こしたい、あるいはそれを歓迎するという思いだ。その起点となっているのが、パソコンの目的や利用形態の変化だ。例えば、ここ数年のクラウドコンピューティング志向の高まりは、ローカルからネットへの移行を進め、個人だけでなくコミュニティーを意識した日本語IMEを生んだ。停滞していた分野が再び動き出したのだ。

 そして冒頭に書いたように、2010年のバイドゥの動きは注目に値する。そして現在のところ、唯一の海外展開を担っているバイドゥの日本法人である。まだサービス内容は発展途上であり、試行錯誤が続いているが、中国企業の海外展開の、一種ベンチマークとしても重要な存在であることは間違いない。

 チャレンジャーだからこそ出来ることがあると、稲垣氏は胸を張った。バイドゥは日本市場にどんな嵐を呼びこむのだろうか。

著者紹介――松本淳

 ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行なっている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+Gmail」など。公式サイト 松本淳PM事務所[ampm]

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