慌ててリリースしたわけではありません
Baiduは、検索を中心にしたサービスであるが、本国ではGoogleやYahoo!のようにウェブアプリケーションやニュース配信などさまざまなサービスを展開しており、インターネットを使うならまず最初にアクセスする便利屋的な存在になっている。
国内では現在のところウェブや画像など、検索に絞った機能のみが提供されている。バイドゥでは、サービスの軸になる検索をダイレクトなサービスと位置付け、その機能を拡張するような周辺サービスをインダイレクトなサービスとして区別しているという。
Baidu Typeは、これまで国内ではなかった、後者(インダイレクト)のサービスに向けた最初の取り組みである。
グーグルは中国語IME(Googleピンイン入力)をすでにリリースしている。ワールドワイドを視野に入れ、ある種均一なサービスを提供するというアプローチは米国の企業によく見られるスタイルだ。
一方、中国のバイドゥは現状ではIMEをリリースしていない。開発拠点は東京・上海・北京の3つだが、国内で提供するサービスの優先順位に関しては、地域ごとの裁量がかなり強く認められているという。今回のBaidu Typeも「検索エンジンをエンハンスするようなサービス」を考えていく一連の流れの中で、落ち着いたものだ。ローカルのニーズを重視する開発姿勢はバイドゥに限らず、2バイト圏に共通の姿勢のように思う。
とはいえ文章作成やドキュメーションのための日本語入力というよりも、検索をどう効率化するかという部分にフォーカスを置いている点は、グーグルもバイドゥも同じである。
稲垣 「日本語版のBaidu検索でも。サジェストをリリースすることも予定しているのですが、私たちだからできることをやりたかった。(Google日本語入力との違いとしては)検索キーワードのログを利用するというよりも、一般的なNLP(自然言語処理)を使いつつ、UIなどの面で独自のアプローチを工夫しました。
Baidu Typeについて様々な反応が寄せられていますが、比較的若い人たち、つまりネット利用を、PCではなく携帯からスタートさせた人たちにとっては、『携帯での日本語入力の感覚と近い』といったポジティブな感想をいただいています」
インライン入力ってホントに便利なんですか?
インライン入力がないことは前回の記事でも指摘したが、この点も推測変換で単語を選んでいく携帯での日本語入力とイメージが重なる。ポップなテイストのスキンが用意されている点なども若年層を意識している部分ではないだろうか。
稲垣 「『インライン入力に対応していないのか?』という指摘は確かに多いです。それは事実なのですが、開発サイドとしては、実際のところ『なぜインライン入力でなければならないのか?』というそもそもの疑問から企画開発をスタートさせた経緯があります。逆にインライン入力でなければいけない理由って何でしょうか?」
改めて問われるとなかなか難しい。まず最初に思いつくのが「慣れ」。いままで、そうだったから……という答えだ。確かに、長文を入力する筆者のような職業では、前後の文脈を意識しながら入力していくインライン入力が便利だが、長い文章を書く機会が少なければ、変換ウィンドウの中で文字が切り替わる方式のほうが、視点の移動は少なくて済むかもしれないと考え始めた。
少なくとも開発が間に合わなかったから未実装ということではないようだ。
稲垣 「日本語入力の『お約束』に縛られずに自由に設計した結果が、現在のBaidu Typeです。実はインライン入力に対応したバージョンも用意していますし、UIを切り替えるといった仕組みもすでに考えてあります。開発段階でのベータテストでも、一般の、特に若い方からのフィードバックとしては、今の『アウトライン入力』でも、変換候補が横一列に並ぶため、使いやすいという反応も多く寄せられました」
MS-IME、ATOKなどすでにIMEが存在している中で、我々があえてその分野に取り組むのであれば、高機能な方向に進むのではなく、ある意味、「ホワイトスペース」を狙っていくべきだとバイドゥは言う。
検索と連携し、検索を拡張する機能アップを予定
変換のログが暗号化されてバイドゥに送信されることも、リリース直後は物議を醸しだした。ユーザーの操作を無意識にトレースし、ログとして収集されてしまう点に不快感を感じるユーザーがいたことは事実だ。
稲垣 「反応の大きさは理解しています。そこでリリース直後に設定を変え、現在では、デフォルトで送信しない設定に修正したバージョンに差し替えています。もうひとつ指摘が多かった点としては、Windows XPのみの対応としていた部分ですが、現在では、Windows VistaやWindows 7にも対応しています(64bitには非対応)」
それでは、辞書の更新や今後の機能アップの予定はどうだろうか?
稲垣 「辞書の更新は不定期ではありますが、短い周期では1週間ごとに更新されることもあります(筆者注:これは現在のところ、Google日本語入力やATOKのそれよりもかなり頻繁と言える)。今年中には、Baiduの検索機能とより連携を深めた大幅な機能アップも予定していますので、楽しみにしてください。
まだ日本ではシェアがそれほど高くない我々は、それだけ制約がなく自由にいろんなチャレンジができます。ある意味有利な立場なのです。異端児であっても構わない、と思ってます(笑)」