MSのネットワーク戦略
ノベルに対抗するマイクロソフトは、「LAN Manager」という製品を持っていたが、これはOS/2またはUNIX用のアドオンソフトウェアであった。そのため、たとえばUNIX上の豊富なネットワーク機能とPC用のファイルサーバー機能を共存させることができた。しかしその多機能さが当時のPCのハードウェアには荷が重く、NetWareに比べて性能面で劣っていた。この時代のサーバーに求められていたのは、使いやすさや豊富な機能ではなく「高速なファイルおよびプリントサーバー」であった。
その後米国では、1990年発売のWindows 3.0で状況が変わる。Windows 3.0はネットワーク機能が標準ではなく、相変わらず面倒な組み込み業が必要だったが、アプリケーションから利用可能なメモリ領域は大幅に拡大した。日本でも、1995年末のWindows 95でネットワーク機能が完全に統合されたことで、本格的なネットワーク機能の普及が始まった。そして現在、ネットワーク機能を持たないPCはほぼなくなった。
ホスト端末システムとは違い、PCはローカルでアプリケーションを実行できる。また、一時的なデータの保存も可能だ。ただし、データの恒久的な保存は1カ所でまとめて行なってもらった方が便利である。これが、サーバOSが求められた理由である(図2)。
たとえば、ビールサーバーが存在しないビアホールを想像してみてほしい。瓶ビールでも缶ビールでもないビールを飲むには、ビール工場へ行く必要がある。馬鹿馬鹿しいようだが、ホスト端末システムはそういうものだ。あらゆる物が1カ所に集中していて、そこまで出向かなければ利用できない。一方、普通のビアホールはクライアント/サーバー型だ。ビールを注文すれば、ウェイターというネットワークを使ってビールサーバから客(クライアント)の元へビールが提供される。ウェイターのミスで、ビールが来なかったり遅かったりすることもあるが、ビール工場まで出向くよりはずっと楽だ。
次回は、マイクロソフトのサーバOSであるWindows Serverの誕生について見ていこう。
召使いと主人
ホスト端末システムでは、コンピュータは「ホスト」と呼ばれた。ホスト(host)というのは「主人」の意味である。また、ホストを利用していたのは「端末」である。特に多いのは、端末側でデータ処理をいっさい行なわない「ダム端末」であった。「ダム(dumb)」には「バカ」という意味がある。端末側でデータ加工ができるものもあったが(インテリジェント端末)、今のPCほど自由な処理ができるわけではなかった。
クライアント/サーバー型のコンピュータ環境が普及してから、大型コンピュータの地位は「主人(ホスト)」から「召使い(サーバント)」に格下げされた。サーバーとサーバント(召使い)は同じ語源を持つ。フランス革命で貴族階級が特権を失ったように、IT革命でホストがサーバー(サーバント)になったというわけだ。
フランス革命が成功した要因の1つに、市民階級が知恵を付け、人権意識に目覚めたことがある。同様に、ダム端末からPCという知恵のある機械に進化した結果、新しいシステムに移行したと考えることもできるだろう。
今でも「ホストコンピュータ」という表現は残っているが、ほとんどの場合はサーバーとしても動作する。ヨーロッパには、貴族や王族出身の政治家が多いが、いまや主人ではなく召使い(公僕)である。そして、公僕の主人は、かつて低い身分だった平民だ(主権在民)。ホストからサーバーへの移行が、政治の流れと似ていることは(こじつけではあるが)ちょっと面白い。
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