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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない(2)

2010年01月26日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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mensionmap

Twitterのフォロー関係を可視化してくれる「mensionmap」(http://apps.asterisq.com/mentionmap/)を使うと、誰とどの程度繋がっているのかが一目でわかる。一画面に表示できるのは2次の繋がりまでだが、それぞれのユーザーをクリックすると、その先に繋がるユーザーも見ることができる。

 「なぜ、Twitterによって新しい時代の活字中毒ともいうべきものが生じているのか」ということに関しては、ネットワークを抜きには考えられない。

 前回のコラムで、わたしのTwitter上でのつぶやきが、どんなふうにRT(ReTweet=そのまま伝聞)されていったかを追ってみた。すると、最初につぶやいた「Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない」という文字列を含んだつぶやきが373件、記事のURLを含んだつぶやきは484件見つかった。

 さらに、Twitterのネットワークに上でRTされた様子を追っていくと、61回、50回、44回、30回、22回……など、1つの短縮URLが、伝聞によって何度も使われていることが分かる。一方、1回もRTされない単独のつぶやきは、全つぶやきの15%ほどにあたる73個だった(Twitter検索+簡単なプログラムによる)。

 このでたらめさ加減は、まさにスモールワールド・ネットワークを思わせるものがある。パプア・ニューギニアのホタルは、お尻の光の強いホタルや光の弱いホタル、ヨコを向いているホタルや離れたところにいるホタルがいて、初めてスモールワールド・ネットワークが成立する。同じように、仕事の関係、趣味の関係、知らない人や有名人など、さまざまな距離感があるのがTwitterだからだ。

 「21世紀型活字中毒」が生じた理由として、このネットワークによる情報のばらつきが、ほどよい脳みそのマッサージになっているからである――などと仮説を立ててみたくなる。

 実のところ、いま「ヤバイ」と言われている新聞の「政治経済面」から「三面記事」まである紙面構成も、こうした情報の「ばらつき欲求」を満たしていたと思える。要するに、Twitterと新聞は、際立ったいくつかの点で類似しているのだ。しかし、Twitterがネット上の他のメディアや新聞と異なるのは、たった1つのつぶやきで、それに関係する話題の状況が一変することである。

 パプア・ニューギニアのホタルのように、すべてが同期するようなことはないが、ユーザーたちの「TL」(タイムライン=ホーム画面にならぶ文字列)が変化する様子は、想像力を刺激するものがある。

 これは、Twitterが「自己書き換え系」のメディアだからかもしれない。コンピュータの世界では、プログラムなどを自己書き換えすると、その計算効率が素晴らしく向上することがある。しかし、そのまま発散して答えが求まらないか、止まってしまうなど、「やばいパターンである」とも言われてきた。

 いろいろな見方があると思うが、Twitterは「山の天気」なのだ。「複雑系のメディア」だと言えるかもしれない。しかも、ワッツとストロガッツの論文が明らかにしたのは、フォローで構成されるネットワークが、想像以上のパフォーマンスを発揮するものである可能性が高いということだ。

 膨大な情報がタレ流されるのはネット全体の傾向だが、この点でTwitterはほかのメディアと根本的に異なる。

 その視点からすると、グーグルが毎週やっている索引作りの膨大な処理(それは結果、リストが乱れることから「グーグルダンス」と呼ばれる)は、いまや牧歌的なプロセスのように見えてくる。グーグルもそれは知っていて、同社がMSNと競うようにしてTwitterのリアルタイム検索にお金を投じ、それによってTwitterが初めて黒字化しそうだというのはご存じのとおりだ。

 そろそろ、20世紀の産業社会が大好きだった「整列主義」から脱して、自然界に存在するネットワークに身を置けるということかもしれない。さすがに、「森ガール」(森の中にいそうな女の子のファッションまたはライフスタイル=弊社の本『森ガールpapier*』がいちばん売れているので、いいかげんなことをいうと担当者に怒られそうだが)と同じだとは言わないが。Twitterは、そんな「ネットワーク意識革命」の練習問題みたいなものではないか。

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