在宅オペレーションの世界が進化している。ブロードアースが提供する「HooooPs」は、ロケーションフリーのホームオペレーターサービスだ。AIGエジソン生命保険が採用し、さまざまなメディアで紹介されたので、ご記憶の方もいらっしゃるだろう。HooooPsのコンセプトは、クラウド的なスケーラビリティと、セキュリティ確保だ。
HooooPsは、ブロードアースが運用するHOS(Home Operator Service)センター内に、SIPサーバーを含めたHOSのシステムを構築し、コンシューマーからの問い合わせをユーザー企業の在宅オペレーターに転送するものだ。もちろん、転送先は在宅オペレーターだけではなく、ユーザー企業のコールセンターの場合もあり得る。HOSセンターはまた、単に音声を転送するだけでなく、リモートシンクライアントの配信サーバーでもあり、ユーザー用環境も格納されている。
さらに、顧客企業の業務アプリケーション(顧客データベースなど)と接続することで、オペレーターは自宅で、既存センターと同等の環境で業務できる。
HOSセンター上のアプリケーションは仮想環境の上に構築されているので、オペレーター座席数の増減にも柔軟に対応できる。そのため、たとえばテレビショッピングのような、放送直後にコールが跳ね上がるようなケースでも、リーズナブルに利用できるというわけだ。この拡張性が大きな売りといえる。
指紋認証デバイスを使った
リモートシンクライアントシステム
ここで問題となるのが、在宅オペレーターのPC環境だ。コールセンターという性格上、コンシューマーの個人情報などがオペレーター各家庭のPC上に表示されることになる。コピー&ペーストをできないようにするのは当然として、HOSセンターへのアクセスなどにも万全を期さないといけない。また、在宅オペレーターのPCスキルもバラバラなので、簡単な操作でHOSセンターに接続できなければならない。
そこで、HooooPsでは指紋認証機能付きのUSBメモリーに、VPNクライアントのほかソフトフォン、リモートデスクトップのクライアント、さらにWebブラウザーをインストールしたデバイスまで用意した。在宅オペレーターは、このUSBデバイスからマシンを起動し、リモートシンクライアントがダウンロードされてくると言うわけだ。オペレーターが実際に使うのは、リモートで配信されたWindowsとなる。
このUSBメモリ上のOSは、ターボリナックスのTurbolinux Client 2008をカスタマイズしたもの。ターボリナックスには、指紋認証をサポートしたUSBシンクライアント「wizpy Style FP801」もリリースしているが、今回はすでにHooooPs側でUSBデバイスが用意されていたため、使っていないという。
指紋認証機能を取り入れたのは、本人以外のユーザーからのアクセスを厳格に制限するためだ。パスワードのみを使った認証では、本人以外が入力してもアクセスできてしまうが、指紋認証を採用することで、本人以外の人間がシステムにアクセスする確率を格段に減らすことができる。
HooooPsはまた、ログイン中の情報漏えいにも気が配られている。たとえば、カメラによる画像認識を使って、在宅オペレーターが席を離れたと判断されると即座にスクリーンセーバーを起動するといった具合だ。本来ならば離席中は離席ボタンを押すべきだが、たまたま忘れてしまう場合もあるからだ。
さらに、管理者はソフトフォンの“バディ機能”を用いて在宅オペレーターが離席中か通話中かと言ったステータスを把握できる。また、在宅オペレーター側も管理者のステータスが分かるようになっている。このため、コンシューマーから高度な質問が来た際には、管理者の手が空いているかどうかがわかるというわけだ。
コスト削減よりもBCPがカギ
HooooPsは広まるか?
HooooPsは現在、冒頭で紹介したAIGエジソン生命保険のほか、大手ISPでのトライアルも始まっている。また、大手ISPの場合は、顧客からの問い合わせの繁閑が激しいため、設備投資をしてコールセンターを整えるのではなく、ブロードアースのシステムを使って、スケーラブルに顧客対応をすることでコストを削減するという意図があるそうだ。
こうした採用に至ったのは、実はコスト削減の面ではなくてBCP(Business Continuity Plan=パンデミックや天災時の事業継続性)の観点が大きかったという。何らかの災害が起こった際に、一極集中のコールセンターがひとつだけでは、すぐに事業継続ができなくなってしまうが、在宅オペレーターであれば、スタッフが分散しているうえに、出社の必要がないからそもそもパンデミックとも関係ない。
ブロードアースでは今後、コールセンターのアウトソーシング化に一層取り組む予定で、CRM連携を含めたコールセンター機能の拡充に努めていくという。