2009年10月末に突如発表された、ジャストシステム創業者の浮川和宣氏(当時の代表取締役会長)と浮川初子氏(同じく取締役副会長)の退任・退社劇。その後すぐ、11月末に「株式会社MetaMoJi」を設立し、両氏のIT業界に対する並々ならぬ意気込みは感じられたものの、具体的にどのような事業展開を計画しているのか、「研究開発機能を有するビジネスインキュベーター」という概念以外は明らかにならないまま2010年を迎えた。
そして1月14日、都内でプレス関係者向けの会社説明会が開催された。ここで明らかになった情報は以下の通り。
- MetaMoJiの会社情報
- ジャストシステムとの関係(譲渡された事業や技術、人材)
- MetaMoJiの創業理念
- 将来計画の概要
会社情報については同社Webサイトにも一部掲載されているが、資本金1000万円はほぼ浮川夫妻の個人資産から持ち出したものだという。MetaMoJiという会社そのものは将来も上場を考えておらず、私企業として研究開発およびWebサービスを軸にした新規事業の立ち上げ――浮川和宣氏の言葉によれば「卵からひよこまで育てて、事業会社として独立させる。その際には他社からの支援を仰ぐことも考えている」――を行なっていくという。
4つのコア技術と16人の技術者を移譲される
青天の霹靂だったジャストシステム退陣について、記者から「ひと言、総括を」と求められると、浮川和宣氏は「今はまだ生々しいので……いずれ時期を見て振り返るつもり」と言葉を濁した。とはいえ、MetaMoJiとジャストシステムの関係はぎくしゃくしたものではなく、ジャストシステムから53件の特許を含む技術、4つのコア技術、それらに携わってきた16人の技術者を中心としたスタッフを招き入れたと説明する。
4つのコア技術とは、「XBRL」(企業情報のXML標準化言語)、「基本オントロジー」、「機能オントロジー」、「PXL」(MetaMoJiでは「LX」と呼ぶ、XML開発基盤)を指す。いずれもXML形式で標準化したデータを扱う技術だ。会場に列席したコア技術開発室室長の松本憲幸氏(ジャストシステムでXML技術のサーバーサイド技術の統括責任者を務めた)は、「当時のジャストシステムで“XFY”構想を発表した際には、(すでに商品化されているXML編集ツール「XFY Editor」以外にも)壮大なスケールをお話したと思う。それらを実現していきたい、というニュアンスでご理解いただきたい」と述べた。
浮川両氏の説明によると、MetaMoJiは現在、16名の従業員と浮川両氏がXML技術やインターネット、PCを活用した新規サービスのアイデアを構想中。その中から事業化に向けていくつかのサービスをまずMetaMoJi自身で提供していき、収益モデルを含めて目鼻がついた時点で事業会社を設立してそこにMetaMoJi自身が投資する。同時に協業可能な企業にも声をかけて事業会社の規模拡大を目指し、事業会社のIPO(株式公開)によって収益を上げるという戦略だ。
といっても、Webサービス全般を手掛ける投資会社(ベンチャーキャピタル)という意味合いではなく、「(当面は)個人向けのサービス」「百年後にも名が残る、多くの利用者に感謝される新事業」「パッケージモデルや広告モデルに代わる新たなビジネスモデルを検討する」など、MetaMoJi(というよりも浮川氏自身)の経営理念に合致したサービスを選んで実現していく、と決意のほどを語った。
また、浮川初子氏は同社の新サービスの開発に必要なミドルウェアの提供も目指しているという。現状ではプログラミング言語を覚えなければ、PCやWebを活用するアイデアはあっても実現するのが困難だが、その敷居を下げて、一般ユーザーや非プログラマーな専門家が新たなサービスを開発・公開したり、改良していけるプラットフォームを提供したいという。
現時点では、具体的なサービスや投入時期については明らかにされなかった(実際会社設立に追われて、新サービスに関する検討は年明けから始めたという)が、数字目標として「5年後までに1~2社のIPOを目指す」と語った。集まった記者とのやり取りの中で、浮川氏は「グループホールディングス(持ち株会社)ならぬ、テクノロジーホールディングス(技術開発に特化した中心会社)」という新語(造語)で、MetaMoJiの将来像をにこやかに話した。