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2010 International CESレポート Vol.5

CESの目玉は電子ブックリーダー 大量出展の秘密は?

2010年01月12日 12時00分更新

文● 西田 宗千佳

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 CES 2010の来場者に、「今年のCESといえばなにか?」と問えば、おそらくほとんどの人が「3DとeBook(電子ブック)」と答えるだろう。それくらいこの2つの技術は、会場内で存在感があったということでもある。

 2009年末、電子ブック関連市場はアメリカで大きな盛り上がりを見せた。話題の中心は、アマゾンの「Kindle」とソニーの「Sony Reader」。どちらも具体的な出荷数は公表していないが、「年末、Amazonが扱うすべての商品の中で最も売れた」(Amazonプレスリリースより)とか、「2008年の暮れに対して4倍の実績。予想を超えた売り上げで、一部商品は在庫が完全になくなった」(米ソニーで電子ブックビジネスを統括する、Digital Reading Business Division Deputy Presidentの野口 不二夫氏)という状況である。

左は、ソニーブースに展示されていた「Sony Reader」。一番手前が最新モデルで、3G通信・タッチパネル内蔵の「Daily Editon」。ラスベガスのSony Styleでも売り切れとなっていた。右は、たまたま食事に出かけた時に見つけた自動販売機。ニンテンドーDSのソフトと一緒に、最も安価(199ドル)のリーダーが売られていた

 1位のKindleをSony Readerが追いかける形でシェアを分け合い、残りを米Barnes & Noble社の「Nook」などの新興モデルと、台湾メーカーなどから出荷されている安価なモデルが分け合う、という構造と考えていただければいい。

サムスンブースに展示されていた電子ブックリーダー

サムスンブースに展示されていた電子ブックリーダー。動作が軽く、ペンタッチでさまざまなメモが残せるのが特徴。ちなみに、LSIは「Freescale製ではない」(Freescale担当者)という

 そのような状況であったので、当然CESでも電子ブック関連の出展は花盛りだ。ソニーなどの大手は自社ブース内に展示していたが、それ以外のメーカーは、会場の一角に設けられた電子ブック関連コーナーに集められ、大量の展示が行なわれていた。実はこのコーナー、米国の電子ブック標準化団体のひとつである「International Digital Publishing Forum」(IDPF)の働きかけによって集められたもので、参加しているのも、IDPFの動きに同調するメーカーが中心となっている。

 ここからは、それらの製品をひとつひとつ紹介……と言いたいところだが、そんな気にはなれない。別に怠けているわけではなく、「ほとんどが同じような商品」だからだ。

 まず、ディスプレーにはE Ink社の6インチサイズのモノクロ「ePaper」を採用し、UIは十字キー+ページ送りボタン。コンテンツは「ePub」(アドビが開発して標準化し、IDPFが推進する電子ブックフォーマット)かPDFに対応し、USBでパソコンと接続して転送する……という製品がほとんどである。

 もちろん中には、iRiver社の「Story」のように、デザインと仕上げの良さではっきりとした差別化を図っている商品もあるのだが、そのほかは率直に言って、KindleかSony Readerの模倣品ばかり、という印象だ。しかも、それらの商品のE-Paperは、KindleやSony Readerに比べるとコントラストが低い。

Freescaleのプラットフォームを使った電子ブックリーダー。左はWoxter社のものだが、同じようなものが大量にいろいろなところから出ており、正直区別がつかない。iRiver社の「Story」は、どことなくKindleを思わせるデザインだが、さすがに個人向けビジネスで経験が豊かな企業だけに、なかなか洗練された製品になっている


6インチePaper+Freescaleのリーダーが多いわけは?

 なぜこのような状況になっているのだろうか? ブースの中に、電子ブック向けLSIソリューションを提供しているFreescale社の担当者がいたので話を聞いてみると、非常に面白い答えが返ってきた。「現在の電子ブックでは、90%以上がFreescaleの同じプラットフォームを採用している」と言うのだ。

 同社のLSIを使っているのは、Kindle(スペック上は未公表)とSony Reader。これだけで、市場の7割以上をカバーしていると言われている。また、低価格製品の多くもFreescaleのLSIを活用しているので、両者を合わせると、彼の言うとおり9割を超えていても不思議はない。

 Freescaleの電子ブック向けプラットフォームでは、CPUのほかにePaperのコントローラーやリーダーソフトのSDKも含まれており、OEM/ODMメーカーによる開発が非常に容易だ。また同社はE Ink社と提携し、ディスプレーまで含めたトータルソリューションとしての提供も行なっているので、「E Ink+Freescale」の製品がどんどん出てくるのである。

 それらのデザインやスペックが、KindleやSony Readerと似ているのにも理由がある。そもそも6インチサイズのePaperは、ソニーが2003年に日本で電子ブックリーダー「リブリエ」を商品化する際に、E Inkと共に開発したもの。そのため、「サイズや画面比が日本の文庫本に合わせて作られている」(前出・ソニー野口氏)というのが真相だ。

 その後、KindleやSony Reader向けにePaperの生産量が増えてコストが下がったことと、Amazonやソニーの「選別から漏れた低品質品」が増えたことから、OEMメーカーにも低コストで使えるようになり、現在の隆盛につながっている。UIや対応フォーマットについても、KindleやSony Readerが採用したものを「追いかけ」つつ、IDPFの標準に寄り添う形となるため、どうしても「似たようなもの」になってしまうのである。

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