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【所長コラム】「0(ゼロ)グラム」へようこそ

Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない

2010年01月08日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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Twitter利用実態調査

アスキー総研『Twitter利用実態調査』より、年代別の利用率。20代が最も多く利用しており、平均年齢は35.7歳。

 100件以上のRTを経た頃に、元の私のつぶやきの中に含まれていた文字列で残っていたのは、なんと「Twitter利用実態調査」という部分だけだった。これだけ見ると、元の情報の20%以下しか残っていないのだから、相当な情報劣化に見える。

 しかし、これは情報が壊れたというのではなく、有用な情報のネットワークが生まれたというほうが正しい。

 いままでのメディアは、発信された情報をそのまま伝えることが重要視されてきた。加工されたり、演出されたり、選択してある部分だけを切り出して伝えることはあっても、それは元の情報を伝えようと努力した結果だったと思う。デジタルに関していえば、「情報を劣化せずに伝えることができる」というのが大きな売りになっていたはずである。コンピュータ・ネットワークの世界でも、長らくデータが損なわれることなく伝えられることが重要だった。

 ところがTwitterでは、1回のつぶやきは140文字までという制限(日本では漢字コードで140文字だが、英語ではアルファベットで140文字なので、さらに情報量は少なくなる)の中で、「Retweet」や「Reply」されるたびにどんどんノイズが加わり、情報は尻切れトンボになっても伝わっていく。

 しかしTwitterでの発言は、まさにクラウド上に置かれている。ここで行なわれたのは、情報劣化した最後のつぶやきを求めるプロセスではなく、新しい知識情報処理というべきものなのだ。もちろん、このようにネット上の発言が引用され、コメントされ、あるいはノイズが加えられるようなことは、今までもあった。ブログメディアやはてなブックマーク、2ちゃんねるやニコニコ動画がそうだといえる。しかし、どうにもTwitterには、それらとは少し違うものがある。

 それは、「ノイズ」の持つパワーを、意図していないとしても、積極的に利用してしまっているということかもしれない。Twitterのような、人間のネットワークで伝聞されていく過程は、今までのブログメディアや掲示板などにはなかったものだ。これが、何か別のものを生み出すような予感がする。つまり、私にはTwitterは、「コミュニケーション革命」というよりも、「コンピューティング革命」に思えるのだ。何か具体的な問題を解く、新しい手段への入り口のように見える(botが重要な役割を果たす可能性がある)。

 たまたまエネルギー効率の話から入ったが、コンピュータの世界も様変わりしていく可能性がある。大量生産・大量消費をネットワークの上に移設しただけのシステムは、いずれ姿を変えざるをえなくなる。「グリーンIT」というような話ではない。もちろん、省電力は当面の間キーワードで、今年は「スマートブック」(スマートフォンとネットブックの中間的な端末)が注目されるという意見もある。しかし、そうではなくてさまざまなコンピュータ・ソフトウェアというものの概念すら変えてしまうようなことが起こるような気がするのだ。そのとき、Twitterのような「もうひとつのクラウド」ともいえるものと、「ノイズ」がポイントになる。

 そんなことを感じる、ちょっと刺激に満ちた2010年の幕開けとなりました。

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