8. 準仮想化ネットワークアダプタのサポート
LinuxおよびWindowsゲストにおいて、ネットワークアダプタに準仮想化デバイスを指定できるようになった。
Parallelsの記事で説明したように、「完全仮想化」よりも「準仮想化」のほうがパフォーマンス面で有利だが、OSに手を加える必要があるため、Windowsなどの商用OSを利用する場合はシステム全体を準仮想化することは困難である。そこで、パフォーマンス面でネックとなりやすい箇所だけを部分的に仮想化する手法が考案された。これにより通信速度の高速化が期待できる。
また、ゲストOSを停止せずにネットワーク接続の割り当て方法(ブリッジ、NATなど)を変更できるようになっている。
9. 仮想マルチプロセッササポートの改善
VirtualBoxは、バージョン3で仮想マルチプロセッサをサポートしたが、環境によっては動作がやや不安定になることがあった。バージョン3.1ではこの安定性が向上している。
最大32個の仮想マルチプロセッサをサポートしており、その数はVMware Fusion 3(4個)やParallels Desktop 5(8個)を上回る。現在Mac Proの上位機種でも論理プロセッサの数は16個(ハイパースレッディング対応の4コアCPUが2個)だが、今後さらに多くの論理プロセッサを搭載したMacが登場してもそのパワーを仮想マシンでフルに活用できるだろう。
10. ネステッドページングの利用
バージョン3.1の新機能ではないが、最後にネステッドページングについて説明しておこう。
OSはアプリケーションごとに独立した論理アドレス空間を割り当てており、メモリーへのアクセスが発生すると「ページテーブル」という変換表を利用して、論理アドレスを物理アドレスに変換している。
しかし、仮想化された環境ではゲストOSが物理アドレスとして扱っているアドレスは「仮想マシンの物理アドレス」であるため、これを「ホストマシンの物理アドレス」に変換する必要がある。このアドレス変換処理をソフトウェアだけで処理するのではなく、ハードウェアで支援する仕組みが「ネステッドページング」だ。
これによりメモリーアクセスの高速化が期待できる。インテルでは「EPT」(拡張ページテーブル)と呼び、NehalemアーキテクチャのCPUから「第2世代のVT-x」として実装されている。
これまで本機能を使用できるMacは2009年モデルのMac Proのみ。しかし、iMacでも先月から出荷が始まったCore i5/i7搭載モデルで利用できるようになっている。
EPTはVMware Fusion、Parallels Desltopでもサポートされている。仮想マシンの利用が多いなら、こうしたCPUの仕様もMacを買い替える判断材料のひとつにするといいだろう。
総評:無料なので試して損はない
VirtualBoxは、今回のバージョンアップでもWindows Vista/7のAeroインターフェースに非対応、ドラッグ&ドロップによるOS間のファイルコピーをサポートしないなど、VMware FusionやParallels Desltopといった商用製品と比べて一部は劣っている。一方で、ライブマイグレーションのサポートや最大32個の仮想マルチプロセッサーなど、競合製品よりも優れた部分もある。
描画性能がやや低いため3Dゲームには不向きとはいえ、Officeでの文書作成やウェブサイトの閲覧など、日常的な作業であれば動作速度も問題ない。なによりも無料で使えるので手軽に試すことができる(企業向けには年間30ドルの有償サポート契約も用意されている)。
開発も活発で、ほぼ月に一度のペースでバグフィックスを主目的としたメンテナンスリリースが公開されている。前述のように主要部分はオープンソース化されているので公式サイトで、進捗状況などをチェックすることが可能だ。
今年4月、米オラクルによる米サンの買収が発表されたが、VitualBoxのダウンロード数は全プラットホーム合計で2000万件を超えており、登録ユーザー数も400万人に達している。そんな人気ソフトを簡単に開発中止にはできないだろう。もし開発が中止されても、コミュニティー主導で開発が続けられるので、先行きを不安視する必要はない。