検索ポータルサイトが日本語入力に参入する意味
と、ここまで、Baidu Typeを使って原稿を書いてきたが、入力効率は残念ながら高いとは言えず、筆者はここで利用を断念した。逆に普段使っているATOKや、前回利用したGoogle日本語入力の完成度の高さを改めて確認する結果となってしまった。
しかし、ここで疑問も生じる。なぜ中国最大手の百度までが、Googleと同じようにIME開発に参入してきたのかだ。
そのこと自体は大変興味深い出来事だ。ウェブ上のデータ、特に検索サービスが日々インデックスするデータを、日本語入力のエンジンに活用しようという取り組みが、並行して進んでいたことの証でもあるからだ。
これまでもSocial IMEといった、クラウド型のIMEの取り組みは複数存在してきた。しかし、それらがあまり一般には普及してこなかったのは、ウェブ上の参照データに十分なボリュームがなく、ユーザーがそのメリットを感じる程度にまでクラウド側のデータベースが整備されていくまでに、かなりの時間が必要だったからだ。これではユーザー側の負担が大きく、積極的に使おうという気分にならない。
Yahoo!やマイクロソフトの動向が気になる
一方大手の検索サービスであれば、各社特色や規模の差はあれども、あらかじめ一定の辞書データベースを保持している。また定期的にユーザー側の辞書データをウェブ側からアップデートしていくことも可能だ。今回のBaidu Typeの登場は技術的にこのアプローチが実用段階に入ったことを証明した形だ。
そう考えていくと、ATOKなどの既存のIME(クラウドに対してローカルIMEとでも表現すべきか)もさることながら、まだこういったサービスを提供していない検索大手、特にYahoo!の今後の動向が気になるところだろう。
2009年7月には、米国Yahoo!とMicrosoftの提携発表を受けて、Bingを採用する方向であることを明らかにしている。前回の記事では述べなかったが、Googleがこのタイミングで無料のIMEをリリースした背景に、Androidや来年には登場するChrome OSへの搭載があるのは、多くの人が最初に考えることだろう。
そう考えればWindowsの世界(特に通信機能を内蔵し、ローカル辞書のアップデートもPCに比べて困難な携帯端末向けのOS)においてYahoo!+Bingを活用したMS-IMEの新バージョンが登場する、といった予想も十分成り立つのではないだろうか。
松本淳
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環修士課程に在籍。ネットコミュニティやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、映像コンテンツのプロデュース活動を行っている。デジタルハリウッド大学院デジタルコンテンツマネジメント修士。著書に「できるポケット+Gmail」など。公式サイト 松本淳PM事務所[ampm]