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ゼロからはじめるストレージ入門 最終回

クラウド時代に対応するストレージの最新技術

2009年12月18日 09時00分更新

文● 吉田尚壮/EMCジャパン株式会社 グローバル・サービス統括本部 テクノロジー・ソリューションズ本部 技術部 テクノロジー・コンサルタント

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クラウドコンピューティングとデータセンターの統合

 次に、2つ目の新しいテクノロジーである「スケールアウト型アーキテクチャ」について紹介する。これについては、コンピュータの歴史ついて振り返りながら解説しよう。最新のストレージアーキテクチャの発展と密接な関係があるので、整理しておく方がわかりやすいはずだ。

 1980年代まで、電子データの保存やアプリケーションの処理はすべてメインフレームで行なわれていた。当時は、通信機能のみ搭載した端末から、メインフレームに集約されたコンピュータリソースを利用していた。90年代に入ると、企業におけるコンピュータの所有率が高まり、クライアント/サーバモデルと呼ばれる、コンピュータの分散利用モデルが普及した。技術の進歩にともないIT化が急激に普及した反面、この頃から企業ではさまざまなアプリケーションサーバの乱立が課題となっていた。

 そして、90年代後期からは、パソコンの一般家庭への浸透とネットワークの高速化によりインターネット時代へ突入した。同時に、企業では分散化しているサーバの台数を減らし、効率よく管理・利用する目的でコンピュータリソースを統合する動きが加速しはじめた。そして、実運用に耐えうるレベルまで成熟したVMwareといったサーバ仮想化製品が、さらにサーバの統合を促進している。

 このようなコンピュータリソースの集約から分散そしてまた集約へ向かうという潮流、リソースの集約・抽象化、およびネットワークの高速化という要素が、クラウドコンピューティングモデルの到来を裏付けているという見方がある。また、大手ITベンダー各社もクラウドコンピューティングを意識したインフラパッケージを相次ぎ発表するなど、すでに競争が激化している。このような状況からも、このコンピューティングモデルが次世代の標準となる可能性は非常に高いといえる。

 さらに、コンピュータリソースの集約が進むと、次にデータセンターの統合が加速するといわれている。すでに、一部の大手ITベンダー中心にデータセンターの統合が始まっており、徐々に他の企業も追随する動きが加速するであろう。

 クラウドサービスを提供する企業は、大規模なハードウェアインフラを準備して管理の集中化によりコストダウンを図る。そして、多くのユーザーを取り込みリソースの利用効率を高めることで無駄な設備投資を抑えるのである。コンピュータリソースの集約が可能となれば、当然ながらそのリソースを複数のデータセンターで分散させる必要はなくなる。

 このように、データセンターの統合も中長期的な潮流と捉えるべきであろう。したがって、今後はサービス提供者だけではなくユーザーも、この大きな変革を見据えて戦略的にIT投資を行なうことが重要となる。その方向性が企業の将来を左右するといっても過言ではないだろう。

ハイエンドストレージの変遷

 一方、ハイエンドストレージも時代とともにアーキテクチャが進化している。たとえば、ハイエンドストレージの代表格である「EMC Symmetrix」は、コンピュータ環境の変化やニーズに対応すべく、1990年代の「共有パスアーキテクチャ」から「Direct Matrixアーキテクチャ」へと進化している(図2)。しかし、従来のアーキテクチャは、スケールアウトに限界がありプラットフォーム(CPUやバスなど)の技術進歩に追随しづらいなど、これからのコンピューティングモデルに耐えうる仕様ではなくなってきた。

図2 EMCハイエンドストレージ・アーキテクチャの変遷

スケールアウト型ストレージ「V-Max」

 ここで、クラウドサービスを提供するような(次世代データセンターの)インフラに対する要件を整理しておこう。おもなストレージインフラに関する内容を表2に列挙した。

表2 次世代データセンターのストレージインフラ要件

 これらの要件を兼ね備えた新しいストレージが、「EMC Symmetrix V-Max」である。V-Maxは、2009年に仮想化環境にも最適な次世代データセンター向けハイエンドストレージとして発売された製品である。それでは、V-Maxのおもな特徴を解説しよう。

クラウドに最適なスケールアウト型アーキテクチャ

 V-Maxは、「V-Maxエンジン」と呼ばれるストレージのコントローラに高速なプロセッサと大容量のキャッシュメモリを搭載している。キャッシュメモリはエンジン間で共有・ミラーリングされており、高い性能と可用性を実現している(図3)。これにより、従来アーキテクチャの課題が克服され、柔軟なスケールアウトやエンジンのアップグレード(最新技術への追随)が可能となった。

図3 V-Maxのアーキテクチャ

 また、V-Maxエンジンは専用インターフェイス(Virtual Matrix)で相互接続することで、1つのシステムとしてスケールアウトが可能だ(図4)。これは、より規模の大きなスケールを見据えたアーキテクチャとなっている。

図4 V-Maxのスケールアウト型アーキテクチャ

運用管理の自動化

 データセンターに統合された大規模なシステム環境において、運用管理を最適化しコストダウンを図るには、人的オペレーションの排除が必須となる。V-Maxは、ストレージの構成プロセスを仮想化することで管理を簡素化できる。従来、ハイエンドストレージの管理は複雑なオペレーションが必要であった。これに対し自動プロビジョニング機能では、ウィザード使ったシンプルな操作でイニシエータやポート、ストレージのグループを作り、それぞれマッピングを自動化することが可能となっている(図5)。

図5 V-Max自動プロビジョニング機能

ストレージ最適化の切り札となる機能

 また、V-Maxには「仮想プロビジョニング」や「QoS」、「FAST(Fully Automated Storage Tiringの略称で自動されたストレージ階層化ソリューションを示す)」をはじめとしたストレージの性能やコストを最適化する機能を提供している。特に、ここでは連載第11回で紹介したFASTの運用に関して具体的に解説しておこう。

 社内に「財務会計システム」「全社メールシステム」「開発環境」の3つの用途で利用されているストレージグループ(論理デバイスの集合)があると仮定する(図6)。FASTを利用する際、ストレージ管理者はこれらアプリケーションの特性や要件に応じて、ストレージタイプ(EFD・FC・SATAドライブ)の配置割合ポリシーを定義すればよいのだ。後は、V-Max自身が性能統計情報を基に、ポリシーに応じて定期的にデータの再配置を行なってくれる。

図6 V-MaxによるFASTの運用

 データの再配置は自動または手動オプションが選択できる。また、運用中はユーザーのフィードバックを得てポリシーを修正することも可能である。

 このように、V-MaxのFASTは次世代データセンターのストレージインフラにおいて、ユーザーには最適な性能を提供しつつ、大容量データの効率的な運用を自動化することで、コスト削減を実現するという非常に有効なストレージ階層化機能である。

 V-Maxは、「EMC Virtual Matrix」というアーキテクチャの採用により、驚異的なストレージのスケールアウトを実現する革新的なストレージである。今後、クラウドの要件にも柔軟に対応できるストレージとして次世代データセンターへの導入が加速するだろう。さらに、当面は本格的なEFDの普及期に突入するため、FASTのようなストレージレベルの最適化が業界のトレンドになると考えられる。

 この連載では、企業向けストレージのアーキテクチャや機能について解説してきた。意外と知られていないが、ストレージの優れたテクノロジーやソリューションにより、ITインフラ全体で大幅な運用管理の効率化やコストダウンが実現できるのだ。ストレージに興味のある読者だけではなく、ストレージがあまり身近ではない方々にもストレージの有効性や重要性を理解いただき、次世代のシステム設計に役立てていただければ幸いである。

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