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古田雄介の“顔の見えるインターネット” 第62回

ZAKZAK・夕刊フジ創設に携わった記者のネット報道作法

2009年12月07日 12時00分更新

文● 古田雄介

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言葉狩りが大嫌い 記者として「交ぜ書き」はやらない

―― ブン屋シリーズですごいと思うのは、そこなんですよ。読み応えがあるだけでなく、挙げられている事件のキーワードがすべてそのまま並んでいる、伏せ字を使っていないのがすごいなと。普通、職業上色々な情報を持っていても、個人サイトやブログでそのまま書くには色々な差し障りが出る気がして、自粛するじゃないですか。読者としては面白いんですけど、それに伴うトラブルなどはありましたか?

宮崎 別にないですね。たとえば、光市の母子殺害事件があったでしょ。あれの犯人が当時未成年だからと一般には氏名非公開にされているけど、僕のサイトにはわざと載せています。だって、今は成人で死刑判決も一度は出ているわけだから。被害者や遺族の名前は公開して加害者だけ守るなんて、法の前の平等はどこにいったと思う。

 そうやって、他で書いてないことを書いているというところはあちこちあります。作家の曽野綾子が立派なんだけど、昔言葉狩りが激しかったときに彼女だけ「文句があるなら直接私に言ってこい」とやっていたわけです。僕もそんな感じで、そういう自粛というのは認めない。あと、最近は新聞でも「交ぜ書き」が多いでしょ。ああいうのも、自分のホームページではなるべくしないようにしています。

ブン屋シリーズ第二弾「ブン屋のたわ言」に掲載している「気になる裁判用語辞典」。こちらも後輩記者に向けて執筆、「裁判用語を同じように間違える奴がいるから、ちょっと勉強しろというつもりで書いてふくらんでいったね」という


―― 交ぜ書きというと、「誤びゅう」や「ら致」「辛らつ」などですね。

宮崎 そう。僕は言葉狩りというのが大嫌いでね。「子供」を「子ども」と書くくらいならいいけど、文章のなかに「辛らつ」とあるよりも「辛辣」のほうが意味が伝わるじゃない。でも、今の各新聞社のマニュアルは常用漢字表に準拠している。まあ、中学生が読める新聞という基準でみんな原稿を書いているわけだけど、こんな気持悪いことしていたら漢字文化は死んでしまう。


―― 文字の情報もそうですけど、事件当時の写真をそのまま掲載しているのも興味深いです。ブログ「Mt.8 Blog」で、ネット上での著作権の扱いは別にする必要があると主張されていましたが、これも実名を載せるのと同じ意図ですか?

宮崎 ああ、よく読んでますねえ。僕でも忘れていた。僕はね、インターネットの著作権というのは認めるけど権利を主張しても仕方ないと思っているんですよ。昔は何でもかんでもアップされて放置されていたのが、YouTubeやニコニコ動画が流行ってから、うるさく言われるようになった。サイトの著作権への考えは、書いてはないけど「勝手に好きなところをコピーして持っていって結構。ことわりをもらう必要もない」というものです。

 ネット上にはないけど資料として必要だという写真はどんどんアップするようにしています。たとえば、民社党の春日一幸第三代委員長。新左翼の唐牛健太郎の晩年の人物写真も、僕のサイトにしかない。昔の伝手で膨大な資料を保存しているところに電話して、「くれ」といったものです。あとは、飛騨川バス転落事故の写真みたいに、自分が事故現場にいたから載せられたというのもありますね。

春日一幸 : 1955年の統一社会党結成以降、党議員として活動。独特の演説口調は「春日節」と呼ばれた。

唐牛健太郎 : 学生運動家。60年安保闘争当時の全学連委員長。

飛騨川バス転落事故 : 1968年に岐阜県で発生した、豪雨と土砂崩れによるバスの転落事故。104名の死亡者が出た、日本のバス事故史上最悪の事故。


―― ちなみに、Mt.8 Blogでも不定期ながら膨大な文章を書いていますよね。エネルギーが分散したりしませんか?

宮崎 そこは書き分けているから大丈夫。ブログは、八ヶ岳の東からにあてはまるコーナーがないようなことを書いています。八ヶ岳での出来事から、ニュース性のコラムまで。要するに、「今起きて、すぐ消える」話はブログで書くという感じです。日記みたいなもんですね。

2005年にスタートした「Mt.8 Blog」。時事関連の考察から八ヶ岳の自然にまつわるエピソードまでノンジャンルでアップしている

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