消費者が賢くならないとIT産業は立ち直れない
文科省は「世界一のスパコン」を作ることによってコンピュータ産業を振興するつもりなのだろうが、残念ながらもう手遅れだ。NECと日立が脱落したことでもわかるように、日本のコンピュータ・メーカーはもう世界に売れるような商品は作れないのだ。むしろ重要なのは、これまでのような談合を撤廃し、競争入札によって内外無差別にIT機材を調達することである。
今までの随意契約では、役所のよく知っている大手メーカーに仕事を平等に配分するので、海外メーカーやベンチャー企業は政府調達に参加できない。このため中小のソフトウェア・メーカーは大手の下請け・孫請けになり、大手は下請けに仕事を丸投げして手数料をとるピラミッド構造が続いてきた。顧客を逃がさないためにはカスタマイズしたほうがいいので、ソフトウェアの標準化も進まず、同じようなシステムを各省庁が別々に調達する非効率な電子政府が続いてきた。
同様の問題は、銀行や大企業でも続いている。日本はサーバ市場の出荷額の4分の1をメインフレームが占める、世界最大の「メインフレーム大国」である。その原因も官庁と同じで、銀行が同じ財閥系のコンピュータ・メーカーに発注するなどの系列関係によって、価格競争が阻害されてきたからだ。特に金融サービスはほとんどIT産業の一種であり、海外の銀行ではシステム部門の出身者が経営の中枢にいるが、日本では「文科系」のITを知らない経営者が、昔からの人間関係で関連会社に発注する傾向が強い。
アメリカのIT産業が成長した一つの原因は、グーグルのようにコンピュータの新しい使い方を実験するベンチャーが現れ、それがハードウェアやソフトウェアの革新を促進したからだ。もはやハードウェアでは日本メーカーは世界市場で勝てないので、今後はソフトウェアとサービスで生き残るしかない。そのために必要なのは、役所が高価な国産機を買い上げることではなく、競争を促進して賢い消費者として革新的な使い方を開発することである。
筆者紹介──池田信夫
1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に、「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義」(PHP新書)、「ウェブは資本主義を超える」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。
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