CPUはレッツ史上初「通常電圧版」
モバイルノートとは思えないパワーは圧巻
内部的に見ると、S8はレッツノート史上でも、最大級の変化が起こった機種と言っていい。それは、CPUに「通常電圧版」のものが採用された、ということだ。現在のレッツノートの原型にあたる、「レッツノートR1」(2002年)以降、レッツノートは一貫して省電力性能を重視し、低電圧版もしくは超低電圧版のCPUを採用してきた。だが、S8では通常電圧版のCore 2 Duo P8700(2.53GHz)を採用し(店頭販売モデルの場合)、方針を大きく転換した。
メリットはもちろん性能向上だ。単純にクロック周波数で比較した場合でも、レッツノートW8(Core 2 Duo SU9400)の1.4GHzに比べて、1GHz以上向上しているが、使ってみると、なんともモバイルノート離れした性能に驚かされる。
例えば、動画共有サービスでの「1080p動画再生」。ニコニコ動画やYouTubeで、いわゆるフルHD(1920×1080、プログレッシブ)の動画対応が進み始めたが、現状のFlash Player(正式版であるVersion 10)ではGPUによる動画再生支援が効かないことと、そもそもデータ量・処理量が膨大であることから、再生負荷がとにかく高い。ニコニコ動画などを見ると、まるでベンチマークテストのようなコメントが大量に掲載されているほどだ。デスクトップパソコンならばそれなりになんとかなるが、CPU性能で劣るモバイルノートでは、CPU負荷が100%に貼り付き、コマ落ちなく再生するのが難しい場合が多い。
だが、S8ではまったく事情が異なる。なめらかに再生できるのはもちろんだが、CPU負荷も4割から5割程度に抑えられる。毎回本連載では、CPU負荷を高めて「最大に近い発熱状況」を計っているのだが、今回はそもそもそこまでの負荷をかけるのがなかなか難しかったくらいだ。
動画再生はともかく、ほかの処理でもCPU性能はあるに超したことはない。オフィスアプリケーションの利用でびくともしないのは当然だが、複数の処理をかけても「スカスカ」動くのが美点といえる。
処理が「軽い」のが常識であったウェブアプリケーションでも、最近は妙に重いものが増えている。例えば、米グーグルがテスト中のコミュニケーションサービス「Google Wave」は、機能も多いが動作も「重い」。Atomを使ったネットブックでは青息吐息で、光回線下でも起動に十数秒かかり、操作にも必ず一拍かかる。だが、S8ではその半分で起動し、動作も重くない。
Windows 7でのWindowsエクスペリエンスインデックスの値は「3.2」。だが、これはグラフィック機能をチップセット内蔵GPUに頼っているために、そこが低く評価されたためだ。CPUは「6.1」と高い値になっており、操作感もまさにその数値どおりの軽さである。そもそも、バッテリー動作重視のモバイルノートのインデックス値で、CPUの値が図抜けて高い機種など見たことがなく、いかにS8が変わった製品かを思い知らされる。
他方、そうなると気になるのは、バッテリー駆動時間や発熱だ。通常電圧版CPUは、当然低電圧版に比べると消費電力が大きく、発熱も大きい。モバイルノートにあまり使われてこなかったのはその辺が大きい。
だが、S8はそのジレンマをきちんと解決して製品化されているように見える。発熱はボディーにほとんど伝わってこない。厚みに余裕を持たせた構造であることも大きいのだろうが、高負荷状態でも不快感を感じるほどの発熱はなかった。
S8は空冷ファンを搭載しており、放熱口が左パームレストの下あたりにある。そのためそこに手がかかると、さすがにかなり熱い。排気の熱は「さすが通常電圧版」と思わざるをえないレベルで、予備知識なく触れると驚くだろう、と思うほどだ。しかし、それが「普通にパソコンを使うときに触れる部分」にはまったく影響していないあたり、パナソニックの放熱設計の確かさを感じさせる。
昔のレッツノートはファンレスにこだわるあまりか、ボディーがかなり熱くなった。夏場に、USBファンをつけてパームレスト部を冷やしながら使っている、という友人の姿を見たことがあるほどだ。現在は気温も低く、単純に比較するわけにはいかないだろう。だが、あくまで「感触」としては、この放熱具合ならば、夏場でも快適に使えるだろうと思える。世の中には、「冬場でも暖房がいらないのではないか」と思えるようなパソコンがある。それらに比べれば天国のような操作感である。
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