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Dreamforce'09に見るセールスフォースのすべて 第1回

Force.comでクラウドを切り開くセールスフォース

2009年11月26日 06時00分更新

文● 金子拓郎/TECH.ASCII.jp

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郵政公社(郵政グループ)による採用やエコポイントのシステム構築に利用されるなど、セールスフォースを導入する企業が増え続けている。そもそも、セールスフォースとはどのような企業であり、サービスの特徴は何なのか。11月18日からサンフランシスコで開催された同社のイベント「Dreamforce '09」の発表をもとにおさらいしておこう。

SaaSからPaaS、そしてクラウドへ

 セールスフォース・ドットコム(Salesforce.com, inc)は、1999年にマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏が設立した企業だ。amazon.comを利用するように簡単に使えるCRM(Customer Relationship Management)サービスを目指しており、ソフトウェアの機能をサービスとして提供する「SaaS(Software as a Service)」の先駆けとなった。

セールスフォースの会長兼CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏

 CRMソフトウェア自体の管理をセールスフォースが行なうため、ユーザー側にソフトウェアのインストールやバージョンアップといった手間はかからず、サーバを用意する必要もない。料金も月額の定額制であり、ソフトウェアパッケージを購入した場合のような、高額な初期費用は不要だ(初期設定などの作業は必要となる)。インターネットに接続されたPCさえあれば利用できる手軽さなどから、全世界でシェアを伸ばしてきた。

Web上で利用するセールスフォースのアプリケーション

 加えて特徴的なのが、サービスのAPIを公開している点だ。これにより、セールスフォースのサービスに不足している機能などをサードパーティが開発し、新しいサービスを開発することが可能となった。このセールスフォースのAPIを利用するアプリケーションを実行するプラットフォームは「Apex(エイペックス)プラットフォーム」と名付けられた。APIが「Apex API」、アプリケーションは「Apex アプリケーション」である。そして、Apex アプリケーションを公開する場として、「AppExchange(アップエクスチェンジ)」が用意された。

 さらにセールスフォースはこの戦略を推し進め、2007年9月にはアプリケーションプラットフォーム「Force.com」を発表する。これが、当初はアプリケーション実行するためのプラットフォームをサービスとして提供する「PaaS(Platform as a Service)」と呼ばれ、最近では「クラウド」と呼ばれるサービスの始まりである。

クラウドサービスへの取り組み方

 9月にプリンスホテルで行なわれた「Cloudforce Japan」など、セールスフォースは世界各地でカンファレンスをひんぱんに行なっている。その中でも最大の規模となるのが、本社所在地であるカリフォルニア州サンフランシスコ市で毎年開催される「Dreamforce(ドリームフォース)」だ。

 Dreamforceは創業者でCEOであるマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏が「1年で一番好きな日」と言い切るほどの力を入れたイベントであり、先頃行なわれたDreamforce '09は世界60ヵ国から2万人以上が集まったという。

大勢の参加者でごった返すDreamforce '09

 さて、そんなセールスフォースが最近ご執心なのが、先ほど紹介したForce.comのクラウドサービスだ。クラウド環境では、アプリケーションがクラウド上で動作するだけでなく、ユーザーのデータもクラウド側に保存される。そのためクラウドサービスには、高い信頼性が必要とされる。

 この対策として、セールスフォースでは3カ所のデータセンターを利用している。Dreamforce '09の基調講演におけるベニオフ氏の解説によると、このうち2カ所がリアルタイムに同期した状態で稼働しており、もう1カ所が待機状態にあるという。もし災害などで1カ所が機能しなくても、数分以内に予備のデータセンターが立ち上がる仕組みとなっている。「本当に立ち上がるのかは実験済み」(ベニオフ氏)だ。

 もちろん、各データセンターで稼働するシステムごとの対策も行なわれている。情報セキュリティの認定であるISO 27001(ISMS)を取得し、また、ユーザーの意見を聞いて、それを反映させることでセキュリティを高める仕組みを導入。これにより、稼働率99.999%の信頼性を確保できているという。

 また基調講演では、この稼働中のデータセンターが複数あることを活かしてソフトウェアのアップグレードを短時間で行なう、「5分アップグレード(five-minute upgrade)」テクノロジーも紹介された。これは2009年10月に発表されたばかりの技術だ。1カ所のデータセンターでアップグレード作業を行なっている際にも、もう1カ所でサービスの提供を続けることで、サービスの停止をわずか5分間に抑えるという。これまでのアップグレードでは、数時間サービスを停止させる必要があったそうで、それが5分間になるのは大きな改善といえるだろう。

 セールスフォースでは、ソフトウェアのアップグレードを定期的に行ない、機能の強化を続けている。5分間の停止時間はあるものの、基本的にユーザーはアップグレードを意識する必要はない。サービスを利用していて、ふと気がつくと新しい機能が追加されているというイメージだ。

 アップグレードの際に、これまでのユーザーを最大限に尊重するのがセールスフォースの特徴だ。たとえば、現行のユーザーインターフェイスは2005年より搭載されたものだが、次のアップグレードで勝手向上のための改良が加えられる。しかし、ユーザーインターフェイスには変わって欲しくないというユーザー向けに、既存のユーザーインターフェイスも引き続き提供されていく。

セールスフォースの4つのクラウドサービス(Chatterは2010年提供開始予定)

セールスフォースは何を提供する?

 セールスフォースが提供しているクラウドサービスは、大きく3種類ある。

Service Cloud 2
 カスタマーサービスとサポート用アプリケーション
Sales Cloud 2
 SFA(Sales Force Automation)アプリケーション
Custom Cloud 2
 サードパーディが開発したアプリケーションの実行プラットフォーム

 加えて今回のDreamforce '09で、新サービス「Salesforce Chatter」が2010年に登場することが発表された。Chatterをおおざっぱに紹介すると、「Twitter(ツイッター)」やSNSサービスの「Facebook(フェイスブック)」のような機能をエンタープライズ向けにしたソーシャルアプリケーションとなる。

 次回は、この4種類のクラウドサービスについて、初日および2日目の基調講演で紹介された内容を元に見ていこう。

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