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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第94回

沈没した「スパコンの戦艦大和」は再浮上するか

2009年11月25日 12時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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目的と手段を取り違えるな

事業仕分けの結論に対して、計算基礎科学コンソーシアムという科学者グループや、国立大学の理学部長も反対を表明した。コンソーシアムの「緊急声明」は次のように訴えている:

スーパーコンピュータは現代の科学技術全体において主要な位置を占める。半導体技術は、通信・物流・医療など国民生活のあらゆる場面で役立っているのは周知のことだが、その基盤にあるのはスーパーコンピュータなどで用いられる最先端の技術であり、それは数年後には広く社会で応用される。[中略]実験や観測で調べることのできない領域を探索するための唯一の方法はスーパーコンピュータを使ったシミュレーションであり、国際的にもこのような認識のもとでスーパーコンピュータの整備強化が進められている。

 ここではスパコンは半導体技術を進歩させるための技術開発なのか、それとも科学的なシミュレーションを行なう学術研究の手段なのかという位置づけが曖昧なまま、理研が両方やると想定されている。理研は、その名称からも明らかなように物理学や化学を研究する組織であり、コンピュータを開発するメーカーではない。実態としても技術開発は富士通に丸投げで、理研が行なうわけではない。どういう研究のために世界最高速が不可欠なのかという具体的な研究目的も不明だ。

 終戦直後のように実験装置がまったくない時代には、サイクロトロンのような装置を理研が開発することが研究の一環だったかもしれない。しかし今日のスカラ型スパコンは、能澤徹氏も指摘するように「スパコンの技術が民生用に応用される」のではなく、その逆に民生用のCPUをつないだものだ。そのCPUもサンマイクロシステムズのSPARC64であり、「日の丸技術」でさえない。

 科学の世界では「世界初」の発見には意味があるが、「世界最大のコンピュータ」には意味がない。欧州にはスパコンメーカーはほとんどないが、CERN(欧州原子核研究機関)などの研究施設は学術的に大きな成果をあげている。理研は研究の目的を明確にし、そのために必要最小限の性能のコンピュータを調達する国際入札をやり直すべきだ。科学者も、国民の税金を使っているという自覚をもってほしい。

筆者紹介──池田信夫


1953年京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。1993年退職後。国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。著書に「なぜ世界は不況に陥ったのか 」(池尾和人氏との共著、日経BP社)、「ハイエク 知識社会の自由主義 」(PHP新書)、「電波利権 」(新潮新書)、「ウェブは資本主義を超える 」(日経BP社)など。自身のブログは「池田信夫blog」。

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