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ASCII Research Interview――明治大学国際日本学部 森川 嘉一郎准教授

「米沢嘉博記念図書館」誕生の経緯と未来

2009年11月25日 12時00分更新

文● 聞き手=遠藤 諭、●構成=村山剛史、●撮影=小林 伸

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米沢記念図書館の位置

千代田区駿河台一帯に広がる明治大学のキャンパス内に、米沢記念図書館は作られた(写真の中央付近)。その同じ通り沿いに展開している明大の敷地の中に、「東京国際マンガ図書館」の設置が予定されている

―― それが2006年10月までの状況ですね。おたく展への協力を依頼したことからコミックマーケットとの関係が始まり、展示物を収める箱を探す過程で、今度は米沢さんの蔵書と結びついたと。しかし、なかなか図書館に行き着きませんね。

少女マンガ雑誌

米沢記念図書館には、少年マンガ雑誌・コミックに加えて、少女マンガ雑誌やレディースコミックなども、多数収蔵されている

森川 それが、米沢さんの逝去直後に急転します。今度は明治大学から、“「国際日本学部」という学部を2008年4月に新設する準備をしており、ついては秋葉原を研究しているあなたの話を聞いてみたい”という打診があったのです。そこで、自己紹介ついでに自治体にプレゼンしていた施設計画をその席で話してみたところ、御茶ノ水の駿河台キャンパス内で、近い将来、いくつかの施設の機能再編や建て替えを行なうことになっており、その中でマンガ・アニメ・ゲームのアーカイブ施設が実現できるかもしれないという話が出ました。それは自治体管理のものではなく、明治大学の敷地ですから、大学の意思で決定できるという強みもありました。

―― おたく展の置き場所探しが、明治大学主体のアーカイブ施設計画に化けたのですね。

森川 さっそく、たたき台となる計画図を作成しました。まず教室の壁を取り払い、集密書架を入れることで、アーカイブとしての収蔵能力を確保します。既存の施設には、ちょっとしたオーディトリアムもありましたので、改装すれば映像作品の上映ができるシアターになるでしょう。それから、展示空間を設けます。「おたく」展の展示物がまるごとありますので、マンガ・アニメ・ゲームの歴史を俯瞰できる常設展示を新たに構成します。そのような、体系的でオーソドックスな展示は、これまでありそうでなかったんですね。
 また、既存施設には800平方メートル規模の講堂もあるのですが、これなどはほとんど改装せずとも、同人誌即売会会場として使えます。その即売会の参加者が帰りに展示を見てくれれば、自分たちの活動がどのような歴史の前衛に位置しているのかがわかり、さらにその資料が体系的にアーカイブ化されているわけです。

「東京国際マンガ図書館」

「東京国際マンガ図書館」(仮称)のイメージ図

―― 出版社も多い土地柄ですから、ことによると大手出版社さんが新刊コミックスの収蔵に協力してくれるかもしれません。ただ、現在のこの記念図書館の建物は雑居ビルで、イメージ図とはかなり異なりますね。

森川 もともとは雑居ビルですが、現在は一棟丸ごと米沢嘉博記念図書館として使っています。そしてこの記念図書館は、現在は「東京国際マンガ図書館」と仮称している、大規模な複合アーカイブをつくるための先行施設なのです。「東京国際マンガ図書館」は2014年度を完成目標に準備を進めていて、イメージ図のように、おおむね高校の校舎くらいの規模を想定しています。それが完成するまでの間、この建物を米沢嘉博記念図書館として使います。

―― 恒久的な施設ではなく、将来的にはアーカイブ施設との合流を考えているわけですね。では、先行施設として米沢さんの記念図書館を設立した理由は?

森川 誤解の無いように申し上げますと、「米沢嘉博記念図書館」自体は恒久的です。「東京国際マンガ図書館」の完成時にはその中に移設されますが、蔵書を吸収して解体してしまうわけではありません。いわば、複数の図書館や博物館がひとつの施設の中に並んでいるような状態をイメージしていただければと思います。

 そして、そのような複合施設を築くための第一歩として、まず米沢さんの蔵書から出発したことには、いくつかの理由があります。ひとつは米沢さんの蔵書は未整理な状態で遺されていて、収蔵にあたって膨大な整理・目録化の作業を要することから、これを先行させたいと考えたこと。

 もうひとつは、マイナージャンルまで広範にカバーしようとする、米沢さんの蔵書に表われた理念が、複合アーカイブが目指す方向でもあること。加えて、個人の名を冠した施設から始めることによって、個人コレクションの複合体としての東京国際マンガ図書館の構造を表わしたいという考えにも基づいています。

『風俗奇譚』、『100万人のよる』

マンガ以外には、風俗誌やいわゆる「カストリ雑誌」などもある。『風俗奇譚』は1960~70年代のアダルト誌、『100万人のよる』のキャッチフレーズは“大人の画報雑誌”

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