映像遅延を1フレーム強の約18.2msに短縮
REGZA Z9000シリーズの取り組みを紹介する前の大前提として、実はZシリーズより下のクラスのREGZAでは、遅延時間が2フレーム以内に収まっていた点に触れておく。これはZシリーズの搭載する複雑な映像処理回路が遅延の原因になっていたことを意味する。裏を返せば、これはZシリーズの画質へのこだわりを表しているとも言える。
単純に遅延の少ないテレビを求めるならZシリーズ以外にする選択もある。しかし、開発陣はREGZAのなかでも最高峰のZシリーズで、なんとか高速表示を実現したいと考えた。「コアなユーザーの間では“REGZAと言えばZシリーズ”という認識が広く浸透している」と本村氏も言う。高画質なZシリーズでも遅延を抑える。そこからスタートして、遅延を1フレーム強にまで抑えることに成功したのだ。
Z9000シリーズで遅延を減らした実際の仕組みは下図の通りだ。これは映像設定で、新機能の「ゲームダイレクト」をオンにすることで有効になる。
Zシリーズでは、入力した映像を出力するまでにフレームバッファを2つ入れていて、その書き込み時間が2フレーム分の遅延につながっていた。これに加え、倍速処理で1フレームぶんの遅延が起こる。
しかし、入力機器をプレイステーション3など1080p出力のゲーム機に限定すれば、入力信号を画面に合った解像度に合わせる、スケーリング処理は必要ない。入力された信号の1ピクセルを、dot by dotでそのままテレビ画面の1画素に割り当てれば済むためだ。同様にプログレッシブ信号であればI/P変換の回路を、3DCGを読み込むのであればノイズリダクションやトーンカーブ調整も不要……といった具合に省略できる処理は多い。
上記の回路をスキップすることで、ひとつ目のフレームバッファをなくして、1フレームぶんの遅延を解消。高画質化処理のためのフレームバッファーは必要になるが、ここには書き込むと同時にすぐに読み出せるFIFOメモリーを使用した。これにより、1フレームには満たないわずかな遅延で済む。120Hz駆動のパネルを使うため、倍速駆動処理は外せないが、結果として遅延は1フレーム強と大幅に小さくできた。
なお「ゲームダイレクト・オン」の状態では、常にdot by dot表示になる。このため、PS3など1080p出力のゲーム機は全画面表示だが、720pでの入力の場合は、画面が中央にやや小さく表示される。この仕様は、反応速度最優先の思想から生まれたものだ。
入力ソースでも遅延時間は異なる
表示の遅延時間は、1080p、720p、480pといった入力信号の種類によっても状況が変化する。液晶テレビでは、画面左上から順次映像を書き換えており、画面全体を一度に切り替えているわけではないからだ。
映像処理に起因した遅延時間は、ゲームダイレクト・オン/1080p入力の場合で、約18.2ms。ただしこれは、左上にある“最初の1ドット”が表示されるまでの時間だ。1コマ目の左上のドットから順番に書き換わり、右下の“最後の1ドット”の表示が完了するまでには、さらに約8.3msが経過する。
つまり、1080p信号の1コマ目が出るまでの遅延時間(入力された垂直同期信号を基準とした場合)は、左上基準で約18.2ms、右下基準で約26.5msとするのが正しい。先に挙げた、ゲームダイレクト・オフ時の約50msという数値はあくまでも最初の1ドットを基準とした時のもの。1コマ全体の表示が終わるまでに、約8.3ms経過という数値自体は変わらない。
なお、720p信号では遅延時間が若干長くなる。理由は、最初の1ドットを描く前に情報の存在しない領域(黒い額縁のようになっている領域)も書き換える必要があるためだ。最初の出画までに約22.5ms、右下のドットを書き終わるまでに約5.3msと若干遅延が大きくなる。詳細は図に示した通りだ。