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本物のスケールアウトができるのはIBMだけ!?

メインフレーム技術を取り込んだDB2 pureScale

2009年11月13日 08時00分更新

文● 吉川大郎/TECH.ASCII.jp

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日本アイ・ビー・エムは、同社のデータベースソフト「IBM DB2 9.7 Enterprise Server Edition」のオプション機能であり、大規模データベース管理用のソフトウェア「IBM DB2 pureScale Feature for DB2 9.7 Enterprise Server Edition」(以下pureScale)を発表した。対応するプラットフォームは「IBM Power 550Express」と「IBM Power 595」。対応OSはAIXとなる。

 同製品は、RDBMSのクラスターにおいて、「Coupling Facility」と呼ばれる専用のノードを置き、そのメモリー上にクラスタ各ノードのロック情報と共有ページを一元管理する。

 pureScaleでベースにしているディスクシェアード型アーキテクチャは、データを理論上1つのディスクに格納し、データ処理のノードをクラスター構成にして分散処理を行なう。トランザクションが増大した場合はノードを増やしてスケールアウトするアプローチを採るため、データそのものには手を付けず、処理ノードさえ増やせば能力が上がるというわけだ。

下垣典弘氏

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 インフォメーション・マネジメント事業部 事業部長 下垣典弘氏

 しかし、発表会の壇上に立った日本アイ・ビー・エム ソフトウェア事業 インフォメーション・マネジメント事業部 事業部長の下垣典弘氏「実際はノードを追加してもオーバーヘッドが出てきて思った通りスケールしない。(結局)データ分割/アプリケーション分割をしないといけなくなってくる。ディスクシェアードでやりたかったことができていない」と言う。

 「8割のシステムが8ノード以下で、4ノード構成がもっとも多い。実際はスケールアウトではなく、スケールアップで対応している」(下垣氏)。

CFと各ノードの関係

CFと各ノードの関係

 そこで、アプリケーションの変更が不要で、ノードの即時再配置が可能なソリューションとしてpureScaleが登場したというわけだ。pureScaleでは、前述の通りCoupling Facility上でロック情報とキャッシュを一元管理し、各ノードはこのCoupling Facilityを通じて情報共有する。さらに、各ノード間の通信には、IPではなくRemote Direct Memory Access(RDMA)を使用するため、オーバーヘッドも低減されるという。まとめると、ノード間通信のオーバーヘッドを、Coupling Facilityへの一極集中とインフラの高速化によって解消するのが、pureScaleの特徴ということになる。

112ノードで81%のパフォーマンス

112ノードで81%のパフォーマンス

 下垣氏によれば、他社製クラスターの場合は、50ノードで60%にパフォーマンスが低下するのに対し、PSでは64ノードで91%、112ノードに拡張しても81%を保ったままだという。

 さらにpureScaleでは、その仕組み上リカバリーも高速になる。Coupling Facilityがロック情報を保持しているため、障害が発生したノードでアップデート中のデータのみをロックし、稼働中の他のノードにワークロードを再配分するからだ。

 pureScaleの出自は、同社のメインフレームであるSystem z。そのアーキテクチャを、今回UNIX上に実装したものだ。ハードウェアに「IBM Power 550Express」と「IBM Power 595」を選択したのは、InfiniBand対応のシステムがこれらだったからだが、なぜIAサーバーではなくて、UNIXなのか? 下垣氏は「IAについては対応を検討中」と述べ、それ以上のコメントは控えたが、IAサーバーを完全否定しているどころか、対応を前提に話をしているような雰囲気は伝わってきた。断定はできないが、AIXへの対応は、99.999%のメインフレームに使われている技術を、まずはオープン系のシステムに移行させる段階の第一弾と捉えられそうだ。

 ターゲットとする市場は、分散系OLTPシステムの置き換えだが、中期的な観点で考えれば、企業の統合やクラウドだという。下垣氏は「今後は、保険業界と自動車業界がつながってくることもある。そうした場合に、子会社を作ってシステム定義をして……というのではなく、クラウド環境の中でお客様のデータをどのように活用していくか? という時にOLTPが出てくる。どの程度ビジネスリスクやトランザクションが起こるか分からないような、全く新しい事業領域が出てくる」と語り、そうした時代への対応を、ノード追加に関してはメインフレームよりも比較的安価なpureScaleによって実現していくことになるのだろうと言う。

 なお、pureScaleの仕組みではCoupling Facilityが要であり、これが倒れてしまったら元も子もない。そこで、Coupling Facilityには相当安定したハードウェアが必要となるわけだが、現在のところCoupling Facilityは2重化対策が施されている。これ以上の信頼性が必要な場合、つまり99.999%を求める顧客に対しては、従来通りメインフレームを勧めていきたいとのことだ。

 pureScaleの価格は、使用料金で268万2000円。12月11日よりダウンロードを開始し、2010年1月15日に製品を出荷する。

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