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池田信夫の「サイバーリバタリアン」 第91回

キャリア官僚が起業を決意するとき

2009年11月04日 16時00分更新

文● 池田信夫/経済学者

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ベンチャーを阻んでいるのは何か

 私の最近の本『希望を捨てる勇気』(ダイヤモンド社)では、日本が長期停滞を脱却できない原因を考えた。その答はもちろん簡単ではないが、一つの要因は起業が少ないことだ。古い企業が、規模が大きくなるにしたがって利益率が低くなるのは「収穫逓減」と呼ばれる法則でやむをえない。だから経済成長を維持するためには、新しい企業が常に出てこないといけないのだが、下の図のように高度成長期には10%以上あった日本の開業率が、最近は5%を下回り、廃業率とほとんど同じになっている。

出所:中小企業白書

出所:中小企業白書

 起業が減った原因も単純ではない。短期的には90年代のバブル崩壊の影響が大きいが、バブル期に起業が多かったのはむしろ特異期で、70年代から起業は減り続けている。これについて、一つは資金的な原因が考えられる。

 亀井金融・郵政担当相は「銀行が貸し渋りしているから中小企業が困る」というが、もし銀行が資金需要に見合う融資をしていなければ、資金が需要超過になって金利は上がるはずだ。ところが長期金利は、1.3~1.4%とOECD諸国の最低水準で推移している。これはむしろ投資機会(資金需要)が不足していることを示している。

 では投資機会は、なぜ不足しているのだろうか。その一つの原因は、日本の得意な製造業で新興国の追い上げが激しくなり、新商品を開発しても売りにくくなったことだろう。しかし新事業にはサービス業が多いので、これも決定的な原因とは考えにくい。もう一つの原因は、起業家そのものが少ないことだ。特に日本では、高学歴の人々は大企業や官庁に就職し、そこから落ちこぼれた人々が起業するというパターンが続いてきた。今のように労働市場が冷え込むと、大企業のホワイトカラーはますます企業にしがみつくようになる。

 その原因は、日本のホワイトカラーがきわめて手厚く守られているからだ。この不況下でも、指名解雇を行なった大企業はほとんどない。「希望退職」は事実上の退職強要だが、それを拒否しても解雇できないし、訴訟に持ち込めば大企業の場合には確実に労働者が勝訴する。整理解雇の4要件によって、企業が破綻するような経営状態でないかぎり、解雇はほとんど不可能だからである。

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