下位互換とパフォーマンスの問題
最後に、従来の11a/gの製品と混在する環境について触れておく。11gが登場した際には、11b対応のクライアントが1台でも混在するとパフォーマンスが大きく低下することが指摘された。この状況は11nにも当てはまる。そこで11nでは、互換性を確保したり、衝突を回避する仕組みが用意されている(図2)。
11nのアクセスポイントは、前述の「レガシーモード」を用いることで、11a/b/gクライアントから接続できるアクセスポイントとして稼働する。11a/gと同じフレーム形式を使用するため、完全な互換性があるからだ。このモードでは、11nクライアントも11a/b/gとして動作する必要があり、11nのメリットはなくなる。
次に「ミックスドモード」とは、11a/gクライアントと11nクライアントに、それぞれ異なる方式で通信を行なわせる方式だ。11nクライアントは11a/gのフレームを認識できるため、衝突を回避できる。しかし、11a/gクライアントは11nフレーム(HTモードのOFDM)やMIMOを認識できない。
そこで11nフレームの先頭に、11a/gのフレーム送信の開始を認識させ、同期を取るタイミングを与える「プリアンブル」という信号を付加する。11a/gクライアントはフレーム全体を受信することはできないが、プリアンブルから送信があることを理解する。またプリアンブルにはフレームの持続時間の情報も含まれ、必要な時間を待ち合わせることができ、衝突を回避する。
なおこの方法だけでは不十分な場合があり、その場合はさらにMAC層でも「CTS-to-self」が行なわれる。CTS-to-selfは11gで規定されている機能で、RTS/CTSを応用している。アクセスポイントは11nの送信前に、あえて11a/gで自分自身に対してCTSを送信する。こうすることで、そのアクセスポイントに接続している無線クライアントへこれから通信が行なわれることを知らせている。そして、CTSに含まれるNAVの間はだれも送信できないので衝突が回避される。
ただし、11a/g形式のプリアンブルやCTS-to-selfはオーバーヘッドとなり、パフォーマンスの低下は大きい。そこで「グリーンフィールドモード」が策定されている。これは11n固有のフレームを使うオプション機能だ。
11a/gクライアントはアクセスポイントに接続できないし、11nの送信を検知できないため衝突を引き起こす。そのため、11nクライアントのみが存在する場合に使える方法だが、最大のスループットが得られる。したがって、11nのパフォーマンスはこのモードを前提で語られることが多い。
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