Vision 964世代でWindows 3.1時代の頂点に
1993年には、より性能をアップした「86C928」がリリースされる(実はこれも登場時期があいまいで、86C801/805/928がほぼ同時期に市場に流れた記憶がある。実際はこの3製品とも1992年中だったかもしれない)。機能的には86C924と変わらない(下位互換性を持っている)が、最大4MBのメモリーをサポートし(86C924までは最大1MB)、初の「DRAM Off-Screen Buffer」をサポートした。
Off-Screen Bufferとは直訳すると「表示されないバッファ」。86C928は表示領域にVRAM、非表示領域にDRAMを使い、あらかじめDRAM側に描き込み、描き込みが終わったらメモリー転送を掛けるという処理ができるようになった。これにより、表示の高速化につながるテクニックをいろいろ使えるようになっている。
余談だが、このOff-Screen Bufferはその後、Matroxのグラフィックスチップ「Millenium」がだいぶ悪用しており、ベンチマークのスコアがむやみやたらと上がる割に、アプリケーションを動かすとそれほど速さが感じられないなんて時期があったりした。
この86C928には、派生型としてPCIをサポートした「86C928p」、およびDRAMをサポートしたローカルバス用の「86C805i」がある。
86C928までは内部が32bitで処理されているが、これに続く「Vision 964」ではついに内部が64bit化される。このVision 964はVRAMをビデオメモリーとしていたが、DRAM対応にした廉価版が「Vision 864」である。このVision 964/864が、S3が性能的にトップに君臨できた最後の世代、と言ってよい。
1995年にはVision 964の後継製品として「Trio64」が登場するが、これは高性能版というよりは、RAMDACを内蔵することでカードコストを下げられる、低価格向け製品にシフトした製品だ。同時に、Trio64のサブセットとして「Trio32」が登場するが、これはTrio64をDRAM対応にしたというべきなのか、Vision 864をRAMDAC統合にしたというべきなのか、ちょっと扱いに困る存在である。
当時のS3の目論見では、Trio64をメインストリーム~ややハイエンド、Trio32をバリュー向けとしたかったようだ。ところが実際には、Trio64そのものがメインストリーム~バリュー向けになってしまい、Trio32の入るべきマーケットなくなってしまった。結局Trio32は後継にあたる製品が出ないまま終わり、その代わりではないが、Trio64系の機能アップに拍車が掛かる。
まず最初に、2Dの描画性能を向上させるとともに、YUV/RGBの色空間変換をサポートしてMPEG-1ビデオのデコード支援を行なう。 メインストリーム向けでは、Vision 964/864にYUV/RGBの色空間変換とズームなどのMPEG-1のデコード支援機能を追加した「Vision 968/868」をリリース。Trio 64に同じ動画再生支援機能を追加するとともに、2Dの描画性能を向上させた「Trio64V+」も、1995年に発表される。同年には、これにUMA(Unified Memory Architecture:メインメモリーをビデオメモリーとして使う)機能を搭載してノートなどで使えるようにした「Trio64UV+」も登場する。さらに翌1996年になると、これらを高速化した「Trio64V2/GX」と、これのDRAM対応版「Trio64V2/DX」も発表される。
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