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無線LANのすべて 第4回

二次変調の技術を知ろう

ノイズに対抗する無線LANのスペクトラム拡散とは?

2009年09月24日 06時00分更新

文● 水野勝成

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スペクトラム拡散はなぜ干渉に強いのか?

 スペクトラム拡散方式はノイズ(雑音)や干渉に強いといわれているが、それはなぜだろうか。振幅変調(AM)では雑音が入ってくると、それがそのまま復調されてしまうため、雑音に弱いとされる。スペクトラム拡散方式は二次変調で周波数拡散を行なうため、雑音がどこかの周波数に強いレベルで継続的に生じていてもその影響はきわめて小さくなる

 たとえば、周波数ホッピングでは、移動してきた周波数に雑音があったとしてもすぐに他の周波数に移動することから影響を受ける時間は非常に短く軽微である。また、直接拡散の場合は元の一次変調波に戻すときに、PN符号がランダムで法則性がないために逆に雑音信号そのものが拡散されてしまい、その影響は大幅に軽減される。デジタル伝送の場合、通常、誤り訂正機能が付いていることから、わずかなエラーであれば復元が可能である。そのため実際上まったく問題ない通信品質を維持できる。

マルチキャリア変調とOFDM

 最新の無線LAN規格IEEE802.11nや地上デジタル放送では、「OFDM(直交波周波数分割多重、Orthogonal Frequency Division Multiplexing)」という新しい方式が使われている。このOFDMは、複数の搬送波を使って変調波を生成するマルチキャリア変調技術の1つとして知られているものだ。マルチキャリア変調とは、一定の周波数帯で複数の搬送波を用いてデータを並列伝送することで高速なデータ送信を実現する。

 通常、マルチキャリアで複数の搬送波を使う場合、ガードバンドと呼ばれる余分な帯域を必要とするために周波数の利用効率が悪い(図5上)。

図5 マルチキャリア変調とOFDM

 そこで、限られた周波数帯域を有効に、効率よく使うために、電波の凹凸をうまく利用して位相を直交させた搬送波を多数並べる(図5下)。ちょうど木箱にりんごを詰め込むように搬送波を整然かつ、ぎゅうぎゅう詰めにする。その結果、1つの搬送波を使うスペクトラム拡散よりも雑音や干渉の影響を抑えられ、かつ、効率の高い伝送が可能になった。

 また、無線の天敵でもあるマルチパスとフェージングにも強いという特徴を持っている。マルチパスというのは、障害物での反射などによって複数の電波が時間差をともなって到来することで、アナログのテレビではゴーストと呼ばれる受信画像が二重に見える現象が起きる。しかし、OFDMではある程度の時間差は吸収することができるため、影響が少ないといわれている。

WiMAXで使われるOFDMAとは?

 またWiMAXでは、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiplexing Access:直交周波数分割多重接続)という技術が使われている。名称がよく似ているOFDMと何が違うのだろうか?

 OFDMAは「多重接続」という略語が示すように、OFDM技術を基本に多重接続を行なう。すなわち、無線という伝送路を多くのユーザーで共有しながら使うことだ。なお、多重接続の代表例としては、多くのユーザーが1つの無線伝送路を使っている携帯電話を思い浮かべればわかりやすいだろう。現在の携帯電話ではCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)という方式がよく使われているのはご承知の通りだ。

 OFDMAの具体的な実現方法はこうだ。OFDMで使っている、多数のサブキャリアをさらに時間ごとに区切ってスロットと呼ばれるグループにし、それをユーザーに割り当てる。多くのデータを送受信するユーザーには多くのサブキャリアのスロットを割り当てることになるが、サブキャリアの周波数帯域を変えたり、時間軸上のスロットの割り当て方法を工夫することで、収容ユーザーやスループットを制御することができるのも、OFDMAの特徴だ。

 このOFDMAは学術的にも非常に面白いテーマが多く、世界各地の大学や企業にて研究された結果、サブキャリアの数を可変させ、他方、サブキャリアの送信間隔(時間スロット)を一定にすることがもっとも伝送効率がよいことがわかった。その方法を「スケーラブルOFDMA(S-OFDMA)」と呼び、IEEE802.16eで採用されたうえで、モバイルWiMAXの標準伝送規格として使われるようになった。

 OFDMというと日本の地上デジタル放送が有名だが、WiMAXやモバイルWiMAXのように多くのユーザーで使われるであろうサービスにも採用されており、直交させて多重させるという発明者のちょっとしたひらめきが、現代の最近の無線技術の一大トレンドであることはだれしも認めるところだ。

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