3Gと公衆無線LANを「プリペイド」で利用
すでに述べたように、今回試用した5101は、ノーマルなモデルではなく、3G通信サービス「HP Mobile Broadband」を組みこんだモデルである。「ネットブック」という名前がついていながら、機能面で「ネット」を取り込んだ製品はまだまだ少ない。低価格であることと、本体にWANの機能を搭載することを両立するのが難しいためだろう。HP Mobile Broadband搭載の5101は、ネットの利用を前提とした、文字通りの「ネットブック」である、といっていい。
HP Mobile Broadbandは、内蔵の3G通信モジュールを使ったサービスだ。日本通信が、NTTドコモの3G回線をMVNO(仮想移動体通信事業者)という形で提供している。そのためハードウエア自体は、一般的なHSDPAだ。SIMカードスロットはバッテリーを取り外したところに組みこまれており、HP Mobile Broadband専用のSIMカードがセットで提供され、それを差し込んで利用する形となっている。
ハード的に特別な部分はないが、ソフト面では違う。HP Mobile Broadbandを利用するための専用ソフト「HP Mobile Access」が組みこまれており、接続は基本的にこのソフトから行なう。アクセスポイントの設定などは必要ない。
HP Mobile Broadbandのベースとなっている日本通信のサービス「bモバイル・ドッチーカ」は、3G通信と公衆無線LANがセットになった、プリペイド式の通信サービスだ。それぞれのサービスを、1分単位で利用して課金していく、という方式をとっている。課金の仕組みはHP Mobile Broadbandも同じだ。
HP Mobile Accessの場合は、「3G」「WiFi」それぞれのボタンを押すことで接続と切断が行なわれる。3Gはもちろんだが、公衆無線LANについても、どのサービスのエリアに入っているかを判別したうえで、無線LANの接続と各サービスへの接続認証が行なわれる。
接続はとにかく手軽。ドコモ3G網のエリアが広いこともあり、どこでも簡単にすぐにつながる、という印象だ。HP Mobile Broadbandはプリペイド式なので、チャージしてある金額分の接続を使い切ると、当然追加チャージが必要になる。3G網の場合は、1分10円という計算になる。出荷時には、5分間分の「プレビュー用チャージ」がなされているということだ。再チャージもHP Mobile Access上からできる。決済はクレジットカードだ。
速くないがストレスを感じない通信速度
プリペイドが生きるのは企業ユーザーか?
3Gでの接続速度は、おおむね380kbps~500kbpsといったところ(gooスピードテストにて測定)で、決して高速ではない。この値が、テスト地点(東京都港区および大田区)に依存したものなのか、サービス全体のものなのかははっきりとしない。動画の閲覧や容量の大きなファイルの転送には向かない。とはいえ、メールやウェブ、各種ウェブアプリケーションの利用程度ならば、これでもさほど問題ないというのも事実だ。ソフトのダウンロード時以外には、テスト中もストレスは感じなかった。
注意が必要な点としては、HP Mobile Accessは初期設定の場合、3Gエリア内で5101を起動させたりスリープから復帰させたりすると、自動的に3Gで接続するということだ。ネットをすぐに使う、という前提ならば問題ないが、そのつもりがない場合、チャージを無駄に消費してしまうことになる。設定を変更しておいた方が安全だろう。
USBモデムでなく内蔵のデバイスで、ワンクリックでネットにつながるのは、やはり気軽で快適である。同様のことはWiMAX内蔵モデルでも感じたが、エリアが広く、接続が確実な3Gの方が、より楽なのは事実だろう。
気になる点があるとすれば、それは「プリペイド式」という料金体系だ。接続料金を抑えるため、比較的高い月額固定制よりプリペイド式を、という発想は理解できるし、その際に、わかりにくいパケット使用量ではなく時間単位がいい、というのも納得はできる。
仮に、イー・モバイルで定額サービスを利用したとすると、月額利用料は4980円(『新にねんで契約』の場合)。単純計算で、月に498分以上接続しない場合、HP Broadband Accessの方がお得になる。おおむね「週に120分くらい」が閾値になるだろうか。「パソコンでアクセスする」という前提に立つと、この範囲を超えない人は意外と多いかもしれない。だが、定額・使い放題のプランに慣れ、「パソコンはネットにつながっていてナンボ」という考えが染みついた身には、時間を気にしながら接続する、というのは「退化」したようにも感じるのも事実だ。
結局、HP Broadband Accessの手法がぴったり来るのは、やはり「企業」内のニーズだろう。月に3000円なり4000円なりの予算を決めておき、その範囲で業務のための通信をさせる、という形を採るならば、パソコンとネット回線の私的利用を防いだうえで、通信コストも削減できる。HP Broadband Accessが個人向けネットブックには導入されず、あくまで「企業向け」とされる5101で採用されているのは、そういった分析があるからなのだろう。
- オススメする人
- ・作りがしっかりした、ビジネス向けネットブックが欲しい人
- ・ネットの利用時間を制限しつつ、コストを抑えて利用したい人
HP Mini 5101 Notebook PC HP Mobile Broadbandモデルの主な仕様 | |
---|---|
CPU | Atom N280(1.66GHz) |
メモリー | 2GB |
グラフィックス | Intel 945GSE Expressチップセット内蔵 |
ディスプレー | 10.1型ワイド 1366×768ドット |
ストレージ | HDD 160GB |
光学ドライブ | なし |
無線通信機能 | 3G WAN(FOMA)、IEEE 802.11a/b/g/n、Bluetooth 2.1 |
カードスロット | SDメモリーカードスロット |
インターフェース | USB 2.0×3、アナログRGB出力、Gigabit Ethernetなど |
サイズ | 幅262×奥行き180×高さ23.2~31mm |
質量 | 約1.2kg |
バッテリー駆動時間 | 最大約4.5時間 |
OS | Windows XP Professional SP3 |
価格 | 7万1400円 |
筆者紹介─西田 宗千佳
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、アエラ、週刊東洋経済、月刊宝島、PCfan、YOMIURI PC、AVWatch、マイコミジャーナルなどに寄稿するほか、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)、「クラウド・コンピューティング ウェブ2.0の先にくるもの」「クラウド・コンピューティング仕事術」(朝日新聞出版)。
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